『Weird: The Al Yankovic Story』~最も史実に基づいた音楽伝記映画~
『Weird: The Al Yankovic Story』は、アメリカのポップカルチャーのアイコンである、パロディ音楽家ウィアード・アル・ヤンコヴィックの伝記映画である。
伝記映画とは言え、今まで我々が(本人も)知らなかった事実があまりに赤裸々に描かれているので観客は大いにショックを受けるはずだ。
公開後はきっとセンセーショナルを巻き起こすであろう、今作は音楽映画ファンには必見の1本であるのは間違いないだろう。
ちなみに今作はウィアード・アル本人が製作・脚本も担当しているので、ほかの音楽伝記映画よりもより事実に基づいて作られている。本当にごく一部だけ、映画の製作の都合上で事実と異なる部分があるが、ここまで事実に忠実な伝記映画はないだろう。
キャストも大変豪華でウィアード・アル役のダニエル・ラドクリフはもちろん、カメオで出演している大物たちにも注目してほしい。
音楽伝記映画と言えばライブシーン。この作品のライブシーンも圧巻である。
特に薄汚れたライブハウスで歌う「I Love Rocky Road」は、「ボヘミアン・ラプソティ」のライブハウスでのシーンを彷彿とさせる。さらに最後のライブシーンでの「Amish Paradise」のシーンは劇場で観ていたら、観客と一緒に大合唱していただろう熱いシーンだ。
作品のストーリーとあの歌詞が重なり、思わず涙を浮かべてしまった。
日本での配信や公開はまだ未定で、どうなるかわからないが、どうしてもどのような内容だったか知りたい人のために、今作のストーリーを紹介する。あくまで、伝記映画なのでネタバレも何もないが、一応、以下【ネタバレ注意】ということで。
映画は、アルことアルフレッド・ヤンコヴィックの幼少期から始まる。
保守的な家庭に生まれたアルフレッドには、人とは違う特殊な才能があった。それは、まったくメロディを変えずに歌詞の部分だけを変えて歌う事ができるという能力であった。しかし、父親からその才能をサポートするどころか、バカにされ、父親が働く謎の工場の仕事を引き継ぐように言われる。特別な何かになりたかったアルフレッドに、ある日、運命を変える出会いが訪れる。それは、どこにでもいるようなアコーディオンのセールスマンであった。甘くも危険なアコーディオンの魅力に取りつかれたアルフレッドだったが、アコーディオンを嫌う父親から購入を反対される。しかし、気の毒に思った母親がなけなしの金で、アコーディオンをアルフレッドに買ってあげる。
アルフレッドは父親にバレないようにこっそりアコーディオンの練習をし、その70年代当時はまだ危険な音楽とみなされていた、ポルカのパーティにも参加し、そのアコーディオンの才能を磨いていく。
だが、アルフレッドの夢のような日々も長くは続かない。父親が彼のアコーディオンを見つけ、それを床に叩きつけ破壊する。このシーンは思わず目を覆いたくなるほどのショッキングなシーンだ。
大学入学に伴い、ロサンゼルスに移り住んだアルフレッドはミュージシャンになるためにバンドのオーディションに参加するが、彼のアコーディオンのスタイルは先鋭的過ぎて他の人間からは受け入れられず、再びの挫折を経験する。
しかし、ルームメイトから、彼のメロディを変えずに歌詞だけを変える音楽スタイルとやればいいと言われ、キッチンでサンドウィッチを作っていると、曲のアイデアが浮かんでくる。それが、ザ・ナックの「マイ・シャローナ」の歌詞を変え、ボローニャサンドウィッチについて歌った、あの名曲「マイ・ボローニャ」である。
そこから、アルフレッドの快進撃が始まる。ライブハウスで伝説のディスクジョッキー、ドクター・ディメントの目に留まったアルフレッドは、彼の勧めで名前を「ウィアード・アル・ヤンコヴィック」に変える。最初は否定的だった、レコード会社も彼と契約。レコードは大ヒットし、アメリカはもちろん世界中で大ヒットを飛ばす。ちなみにこの作品では、あの麻薬王、パブロ・エスコバルもアルの大ファンだったことが明らかになる。
しかし、皆が彼の音楽スタイルと受け入れたわけではなかった。業界のパーティに行けば、ラジオDJのウルフマン・ジャックに絡まれ、クイーンのベーシストのジョン・ディーコンからは、「Another One Bites the Dust」の替え歌をその場で即興にて作れと喧嘩を売られる。ちなみにその時にできた曲こそ、あの「Another One Rides the Bus」である。
ミュージシャンとしての成功の裏で、彼は新たな悩みを抱えていた。それは、自分が出している曲がオリジナルではない事。彼はこのままパロディ・ソングをやるべきか、オリジナル・ソングをやるべきかを悩み始める。
そして、ドクター・ディメントに勧められたLSDでトリップしたアルは叫ぶ。
「キャプテン・クランチなんか食べたくない!レーズン・ブランなんて食べたくない!」
すると、頭の中でドクター・ディメントの声がする「食え!食え!食え!」
名曲「Eat it」の誕生である。彼の初めてのオリジナル・ソングとして「Eat it」は発売される。しかし、そこで思いもよらぬ大誤算が起こる。その当時、人気アーティストだったマイケル・ジャクソンがこともあろうに、「Eat it」の替え歌で「Beat it」という曲をリリースするという。メロディはそのままで歌詞だけを変えるという行為に激怒するアルだったが、「Beat it」は大ヒットしてしまう。
そんな悲痛のアルの前に現れたのはマドンナであった。彼女は自分の曲「Like a Virgin」をパロディさせようと近づいてくる。孤独だったアルはマドンナと付き合うようになり、やがてそれの関係がアルの人生を崩壊させていく。
さらにアルが懸念した通りに人々は「Beat it」がオリジナルで「Eat it」がパロディだと思うようになってしまう。
そして、ショックを受けたまま飲酒運転による自動車事故を起こしたアルは救急病院へ。
なんとか一命をとりとめた彼は執刀医の言葉にインスピレーションを受けながら、病室の手術台の上で「Like a Surgeon」を書き下ろす。
新曲の誕生でファンを沸かせる一方で、アルの態度は悪くなる一方で、ついにバンド仲間からもドクター・ディメントからも見放されてしまう。
さらにステージ上での悪態でアルは逮捕されてしまい、どん底へ。マドンナとの関係に悩む彼だったが、マドンナがなんとパブロ・エスコバルに誘拐されてしまう。
パブロ・エスコバルは、大ファンのアルをおびき出すためにマドンナを誘拐したのであった。アルは一人でパブロ・エスコバルのアジトに乗り込む。
カルテルを壊滅させて、マドンナを救うアルだったが、マドンナの「一緒にカルテルを率いてコカインビジネスで世界を支配しよう」という言葉に嫌気がさし、彼女と別れることを決意する。
かつての栄光を捨て、実家に戻り、家業の工場を継いだアル。
父親の望みを叶えてあげたと思ったアルだったが、決してそうではなかった。
父親は彼を愛してないと思っていたが、それは全くの勘違いであったのだ。
父親はアルにとあるスケッチブックを見せる。父親は昔アーミッシュでアルと同じく変わり者で周りと馴染めず孤独な少年だった。そしてまたアルと同じくアコーディオンに魅了された少年であった。しかし、アコーディオンである事から周りからイジメられ、暴力を振るわれ、父親はアコーディオンを恨らむようになっていった。そしてそんな思いを息子にはさせたくないからと強く当たってしまったのであった。
そして、父親がアーミッシュの時に書いた詩を見つける。アーミッシュの素朴な日々を書いたその詩をアルはメロディに乗せて、また名曲を生み出す。
それがあの「Amish Paradise」だ。
しかし、音楽賞の授賞式の日にアルは、マドンナが雇ったヒットマンの凶弾に倒れる。
1985年、我々が愛した、伝説のミュージシャン、ウィアード・アル・ヤンコヴィックはこの世から去り、映画は幕を閉じる。
エンドクレジットでは、今作のために書き下ろした新曲「Now You Know」が流れる。その歌の中でも歌われているように、今作は一切の誇張やウソなどはなく、一部のシーンを除いてはほとんどが事実に基づいている。
なお、パーティのシーンでジョン・ディーコンからライブエイドでのウェンブリー・スタジアムのライブに参加を依頼されて、アルが断るシーンがあるが、実際には、このライブにアルは参加したようである。
というわけで、これがウィアード・アル・ヤンコヴィックによる自伝映画の中身である。ぜひ映像で細かなギャグや大物カメオ出演を楽しんでほしい。