タイカ・ワイティティって誰!?『ジョジョ・ラビット』公開記念ver
『マイティ・ソー:バトルロイヤル』の公開ですっかり有名になってしまった
監督タイカ・ワイティティの3年前に書いたものを追加して書きました。
以前のは、『ハント・フォー・ワイルダー・ピープル』までだったので
今回は公開中の『ジョジョ・ラビット』も追加しての記事になります。
〇タイカ・ワイティティとは・・・
コメディアンに俳優、画家、写真家、さまざまな顔を持つ彼は、1975年8月16日ニュージーランドの西海岸、ワイハウベイに、マオリで画家の父親と学校の先生をしているユダヤ系ロシア人の母の間に生まれた。
両親の影響でさまざまな芸術に触れた子供時代。アメリカ映画にポップ音楽、中でも彼が最も影響を受けたのは、画家のアンリ・ルソー。
映画監督になるというつもりはなく、画家なのか写真家なのか俳優なのかまだ将来の事は考えていなかった。そんな彼は12歳の頃、特に理由もなく鉤十字を描きたくなる衝動に襲われ、ノートに鉤十字を描くようになる。しかし、ユダヤ系の母を気の毒に思い、鉤十字に四つの棒線を加え、窓に変えた。
彼はヴィクトリア大学に入学し、そこで、後に映画作品での相棒となるジェマイン・クレメント出会う。
ジェマイン・クレメント。ワイティティと同じくマオリの血を引く、コメディアン兼俳優兼ミュージシャン。主な出演作に「BFG」(2016)「男ゴコロはマンガ模様」(2016)など
ワイティティは、大学でSo You’re a Manというコメディグループに所属し、同じく所属していたジェマイン・クレメントとHumorbeastsというコンビを組む。
Humorbeasts時代の映像。女子高生像は万国共通だ!
2人は、1999年にBilly T Awardというコメディの賞を受賞するまでになる。
また同じ年にワイティティは、『サクリファイス』というニュージーランド映画に出演。
2002年には『The Strip』というニュージーランドのドラマにストリッパー役で出演。「一体何やってんだ、俺は?!」と現場で恥ずかしくなったと本人は振り返る。
同じ年に『John & Pogo』 (2002)という短編を監督する。
そして、2年後彼に転機が訪れる。
2004年、2作目の『Two Cars, One Night』 (2004)を監督。
主演の子役は演技をしたこともなく、監督本人も監督としても技術もないまま撮られた作品だったが2005年アカデミー賞の短編部門にノミネートされる。
多くの人に見てもらえるチャンスを喜ぶも、あまりアカデミー賞に敬意をいただいてなかったからか、授賞式中寝てしまうという前代未聞の失態を犯す。
アカデミー賞授賞式中に寝る、ワイティティ
その後も『Heinous Crime』(2004)、『What We Do in the Shadows: Interviews with Some Vampires』(2005)(シェア・ハウス・ウィズ・ヴァンパイアの基となる作品)を監督。
そして、第二次大戦中のマオリの兵隊たちを描いた短編『Tama Tu』は評判を呼び、
ヴァラエティ誌の注目すべき若手監督10人選ばれる。
https://www.nzonscreen.com/title/tama-tu-2004
その後も、短編を撮り続けた彼はいよいよ、長編作品を撮ることになる。
一緒に短編を作ってきた、女優で脚本家のローレン・ホースリーと共同で脚本を書き、彼女を主人公に、主人公の恋人役に相棒のジェマイン・クレメントを迎えての初の長編『Eagle vs. Shark』 (2007)は、作られた。
ストーリーというと、
物静かな女性、リリー(ローレン・ホースリー)が働く店にやってくる常連客のジャーロッド(ジェマイン・クレメント)に恋した彼女は、彼のコスプレパーティ(好きな動物のコスプレをする。リリーはサメ、ジャーロッドはワシ。だからこんなB級モンスター映画のようなタイトルなのである)に参加。パーティ中、ストリート・ファイターとモータルコンバットを足して二で割ったようなゲームのトーナメントで勝ち進み、見事にジャーロッドの心をつかみ、恋人となるのだが、彼にはかつて自分をいじめた同級生への復讐に燃えていた。リリーはジャーロッドの復讐を手助けする形で、彼の故郷へ一緒に向かうのだが・・・。
https://www.youtube.com/watch?v=_OrmOuC-aUY
臆病で前に進むことができなかったリリーが恋をし、色々な経験をすることで成長する一方、復讐の鬼と化したジャーロッドはイジメや兄の自殺で前に進めずにいるというコントラストで進んでいくストーリーは、バカバカしいギャグの連続の中にも哀愁を感じさせるどこか切ない作品に仕上がっている。
ワイティティ曰く、自分の映画は、笑えたり、悲しかったりと色んな要素を混ぜ合わせた内容にしたいのだという。
このスタイルは、以降の作品にも引き継がれていく。
『Eagle vs. Shark』 は多くの映画賞に輝き、彼の名はニュージーランドを越え世界へと広がり始めた。
いじめっ子の現在の所在を探すためハッカーとして友人を雇うのだが、信じられないほど遅いネット接続、その上PCがエロサイトのウィルスに感染しているという、映画史上最も格好の悪いハッカーのシーン
そしてアメリカの有料放送局HBOで、
ジェマイン・クレメントとブレッド・マッケンジーのミュージックデュオ、
「フライツ・オブ・コンコルズ」のドラマシリーズ『Flight of the Conchords』の4エピソードの監督を務める。このドラマは、ニュージーランドからやってきた彼らがアメリカでのスターを夢見て奔走するが、ことごとくうまくいかないという哀愁たっぷりのコメディドラマだ。このドラマがユニークなのは、ドラマの途中で彼らのミュージックビデオが始まるというミュージカル調でありながら、普通のミュージカルとも一味違うなんとも風変わりな作品である。
ワイティティが監督した第7話から。ほとんど「ラ・ラ・ランド」である www.youtube.com
さらに自身の短編『Two Cars, One Night』を基に2010年には長編第2作目の『BOY』(2010)を監督する。
ストーリーは、
1984年のニュージーランドの東海岸、ワイティティの出身地でもある、ワイハウベイに住む、11歳のマイケル・ジャクソンに憧れる少年、ボーイは、超能力が使えると信じている弟と2人で孤独に暮らしていた。そんなある時、刑務所から帰ってきた憧れの父親、アラメインとついに再会する。ボーイは、アラメインをマイケル・ジャクソンのようなヒーローだと思い込んでいたが、彼が探しているお宝を一緒に探すうちに彼が自分が描いていたような父親ではない事に気づいていく・・・。
マオリ系の貧困、学校のいじめ、育児放棄など決して明るいテーマとは言えないものを描きながら全編に脱力ギャグとポップカルチャーネタが詰め込みワイティティ流の暖かさとギャグで非常にバランスの取れたハートウォーミングなコメディとなっている。
ワイティティ曰く、今までニュージーランドの映画とりわけマオリを描いた作品は、暗い映画ばかりであったという。しかし、マオリの人間も楽しいし面白いという事を知ってもらうためにこのような作風にしたという。
この作品は、当時のニュージーランドの国内興行収入記録の1位を塗り替えるほど、大ヒットし、国内外多くの映画賞を獲得した。
Patea Maori Clubのヒット曲『Poi E』に乗せて、マオリの伝統的なダンス、ハカとマイケル・ジャクソンのスリラーをミックスさせたシーン。エンドクレジット前の本編には関係ないシーンのだが、ワイティティ曰く、アラメインというキャラクターを悪役にしすぎないようにするのと作品のトーンを明るくためにこのシーンを入れたという。
その後は、ニュージーランドでドラマシリーズの『Super City』、アメリカでは」MTV製作の『The Inbetweeners』の数エピソードの監督。
さらに日本では話題になったロード・オブ・ザ・リングシリーズをモチーフにした、ニュージーランド航空の機内安全ビデオ「壮大すぎる機内安全ビデオ」の監督と出演を務めた。
2014年には、長編第3作目の『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』をジェマイン・クレメントと共同で監督。
この作品は、2005年に監督したショート・フィルムの『What We Do in the Shadows: Interviews with Some Vampires』を長編にした作品である。
多くの吸血鬼映画にオマージュをささげながら、ニュージーランドの人々の平凡なライフスタイルを笑いにした作品で、脚本制作には6年、撮影時間150時間以上、編集には14か月を費やし、笑いと哀愁に満ちたこの作品を作り上げた。
とはいえ、ワイティティ本人は、もうこれ以上何もしたくなくなるほど大変なものだったと振り返る。
2016年には、ニュージーランドの作家バリー・クランプの小説を原作にした作品
『Hunt for the Wilderpeople』(2016)を監督。サム・ニールなど大物俳優を迎え前3作よりも大規模な映画となった。
ストーリーは、反抗的な少年、リッキーが山奥に住む老夫婦に引き取られる。初めは、反抗的だった彼も2人の優しさに触れ、次第に心を開いてきた矢先、そこのおばさんが死んでしまう。また別の親もとに送られそうになった彼は、自分の死を偽装し、山奥に逃げ出してしまう。リッキーを山奥でおじさん(サム・ニール)に発見されるも、おじさんがリッキーを誘拐したと勘違いされ警察から追われることに。ニュージーランドの山奥で2人の逃避行が始まる。
ワイティティ作品の中の最高傑作ともいえる、今作は、ニュージーランドの自然豊かな景色とランボーなどを彷彿とさせるバイオレンスたっぷりの緊張感のあるサバイバル映画であり、後半はマッドマックスのようの激しいカーチェイスになるなど、今までの小規模な世界観から解き放たれた作品になっている。もちろん、ワイティティ作品らしいギャグは満載である。(今作でもロード・オブ・ザ・リング、ターミネーターなど多くの映画をギャグに使っている)
批評から大好評で迎えられた(映画レビュー集計サイトRotten Tomatoesでの評価は98%)この作品は、現在NETFLIXで配信中。
ワイティティの作風は、いつも共通している。負け犬たちの物語であるという事。
そして、笑いと哀愁。
ストーリーだけでは聞けば、笑ってしまうような物語に悲しさを紛れ込ませてみたり、逆に悲しい物語を笑いたっぷりで描いてみたり。常にこの2つをミックスさせるように心がけている。
6本目の『ジョジョ・ラビット』(2019)は、
ナチス統治下のドイツを舞台にユダヤ人を憎みナチスに心酔する少年の物語。
『ジョジョ・ラビット』は、ワイティティの過去の作品との共通点が多い作品と
なった。
『ジョジョ・ラビット』も『BOY』も『ハント・フォー・ワイルダーピープル』も
父親不在の物語である。ワイティティの作品で多く共通しているテーマである。
『BOY』の父親と『ジョジョ・ラビット』のヒットラーは、
ほとんど同じようなキャラクターで、それを本人が演じている。
『BOY』でワイティティは、刑務所から帰ってきた主人公の父親を演じ、
『ジョジョ・ラビット』では、ワイティティは主人公の父親代わりとしての
ヒットラーを演じた。
2人とも主人公にとってあこがれとして登場するが、
やがてはろくでもない人間だというのがわかってくる。
主人公は、そこから離れていくという結末は、共通している。
一方で、『ジョジョ・ラビット』になって共通したテーマだが大きく変わった部分
もある。
『Eagle vs. Shark』では、主人公が人を憎むことで生きてきた人物で
恋人からの愛を与えられても憎しみが勝ってしまい、自分を変える事が出来ず
恋人も何もかも失ってしまうというビターな結末。
だが、『ジョジョ・ラビット』も主人公のユダヤ人への強い憎しみを抱えているが
その憎しみが愛の力によって変わっていき、愛が憎しみに勝つという結末になった。
監督第一作目の『Eagle vs. Shark』と『ジョジョ・ラビット』はとても対になっている
作品である。
『ジョジョ・ラビット』を観て、ワイティティにハマった人にはぜひ
『Eagle vs. Shark』も観てほしい。
最後にタイカ・ワイティティ、アカデミー賞おめでとう!
参考
Taika Waititi Biography
https://www.nzonscreen.com/person/taika-waititi/biography
FIVE FAVORITE FILMS WITH BOY DIRECTOR TAIKA WAITITI by Luke Goodsell
https://editorial.rottentomatoes.com/article/five-favorite-films-with-boy-director-taika-waititi/
ニュージーランド国内興行収入の記録を塗り替えた新作『ボーイ』とは?11歳の少年が主人公! (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)
http://www.cinematoday.jp/page/N0039252
World Of Taika
Taika Waititi interview: On Hunt for the Wilderpeople and the creative journey
By Clarisse Loughrey
Exclusive: Taika Waititi on Hunt for the Wilderpeople, and what fans can expect from Thor: Ragnarok
http://www.heyuguys.com/taika-waititi-interview-hunt-wilderpeople/
The Art of Creativity | Taika Waititi | TEDxDoha