I LOVE LAMP ~コメディのあれこれ~

海外コメディの事を書きます。日本では紹介の少ないものを中心に。主にジャド・アパトー

『Weird: The Al Yankovic Story』~最も史実に基づいた音楽伝記映画~

『Weird: The Al Yankovic Story』は、アメリカのポップカルチャーのアイコンである、パロディ音楽家ウィアード・アル・ヤンコヴィックの伝記映画である。

 


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伝記映画とは言え、今まで我々が(本人も)知らなかった事実があまりに赤裸々に描かれているので観客は大いにショックを受けるはずだ。

 公開後はきっとセンセーショナルを巻き起こすであろう、今作は音楽映画ファンには必見の1本であるのは間違いないだろう。

 ちなみに今作はウィアード・アル本人が製作・脚本も担当しているので、ほかの音楽伝記映画よりもより事実に基づいて作られている。本当にごく一部だけ、映画の製作の都合上で事実と異なる部分があるが、ここまで事実に忠実な伝記映画はないだろう。

 キャストも大変豪華でウィアード・アル役のダニエル・ラドクリフはもちろん、カメオで出演している大物たちにも注目してほしい。

 音楽伝記映画と言えばライブシーン。この作品のライブシーンも圧巻である。

特に薄汚れたライブハウスで歌う「I Love Rocky Road」は、「ボヘミアン・ラプソティ」のライブハウスでのシーンを彷彿とさせる。さらに最後のライブシーンでの「Amish Paradise」のシーンは劇場で観ていたら、観客と一緒に大合唱していただろう熱いシーンだ。

 作品のストーリーとあの歌詞が重なり、思わず涙を浮かべてしまった。

日本での配信や公開はまだ未定で、どうなるかわからないが、どうしてもどのような内容だったか知りたい人のために、今作のストーリーを紹介する。あくまで、伝記映画なのでネタバレも何もないが、一応、以下【ネタバレ注意】ということで。

 

 映画は、アルことアルフレッド・ヤンコヴィックの幼少期から始まる。

保守的な家庭に生まれたアルフレッドには、人とは違う特殊な才能があった。それは、まったくメロディを変えずに歌詞の部分だけを変えて歌う事ができるという能力であった。しかし、父親からその才能をサポートするどころか、バカにされ、父親が働く謎の工場の仕事を引き継ぐように言われる。特別な何かになりたかったアルフレッドに、ある日、運命を変える出会いが訪れる。それは、どこにでもいるようなアコーディオンのセールスマンであった。甘くも危険なアコーディオンの魅力に取りつかれたアルフレッドだったが、アコーディオンを嫌う父親から購入を反対される。しかし、気の毒に思った母親がなけなしの金で、アコーディオンをアルフレッドに買ってあげる。

 アルフレッドは父親にバレないようにこっそりアコーディオンの練習をし、その70年代当時はまだ危険な音楽とみなされていた、ポルカのパーティにも参加し、そのアコーディオンの才能を磨いていく。

 だが、アルフレッドの夢のような日々も長くは続かない。父親が彼のアコーディオンを見つけ、それを床に叩きつけ破壊する。このシーンは思わず目を覆いたくなるほどのショッキングなシーンだ。

 大学入学に伴い、ロサンゼルスに移り住んだアルフレッドはミュージシャンになるためにバンドのオーディションに参加するが、彼のアコーディオンのスタイルは先鋭的過ぎて他の人間からは受け入れられず、再びの挫折を経験する。

 しかし、ルームメイトから、彼のメロディを変えずに歌詞だけを変える音楽スタイルとやればいいと言われ、キッチンでサンドウィッチを作っていると、曲のアイデアが浮かんでくる。それが、ザ・ナックの「マイ・シャローナ」の歌詞を変え、ボローニャサンドウィッチについて歌った、あの名曲「マイ・ボローニャ」である。

 そこから、アルフレッドの快進撃が始まる。ライブハウスで伝説のディスクジョッキー、ドクター・ディメントの目に留まったアルフレッドは、彼の勧めで名前を「ウィアード・アル・ヤンコヴィック」に変える。最初は否定的だった、レコード会社も彼と契約。レコードは大ヒットし、アメリカはもちろん世界中で大ヒットを飛ばす。ちなみにこの作品では、あの麻薬王、パブロ・エスコバルもアルの大ファンだったことが明らかになる。

しかし、皆が彼の音楽スタイルと受け入れたわけではなかった。業界のパーティに行けば、ラジオDJウルフマン・ジャックに絡まれ、クイーンのベーシストのジョン・ディーコンからは、「Another One Bites the Dust」の替え歌をその場で即興にて作れと喧嘩を売られる。ちなみにその時にできた曲こそ、あの「Another One Rides the Bus」である。

ミュージシャンとしての成功の裏で、彼は新たな悩みを抱えていた。それは、自分が出している曲がオリジナルではない事。彼はこのままパロディ・ソングをやるべきか、オリジナル・ソングをやるべきかを悩み始める。

そして、ドクター・ディメントに勧められたLSDでトリップしたアルは叫ぶ。

キャプテン・クランチなんか食べたくない!レーズン・ブランなんて食べたくない!」

すると、頭の中でドクター・ディメントの声がする「食え!食え!食え!」

名曲「Eat it」の誕生である。彼の初めてのオリジナル・ソングとして「Eat it」は発売される。しかし、そこで思いもよらぬ大誤算が起こる。その当時、人気アーティストだったマイケル・ジャクソンがこともあろうに、「Eat it」の替え歌で「Beat it」という曲をリリースするという。メロディはそのままで歌詞だけを変えるという行為に激怒するアルだったが、「Beat it」は大ヒットしてしまう。

そんな悲痛のアルの前に現れたのはマドンナであった。彼女は自分の曲「Like a Virgin」をパロディさせようと近づいてくる。孤独だったアルはマドンナと付き合うようになり、やがてそれの関係がアルの人生を崩壊させていく。

さらにアルが懸念した通りに人々は「Beat it」がオリジナルで「Eat it」がパロディだと思うようになってしまう。

そして、ショックを受けたまま飲酒運転による自動車事故を起こしたアルは救急病院へ。

なんとか一命をとりとめた彼は執刀医の言葉にインスピレーションを受けながら、病室の手術台の上で「Like a Surgeon」を書き下ろす。

新曲の誕生でファンを沸かせる一方で、アルの態度は悪くなる一方で、ついにバンド仲間からもドクター・ディメントからも見放されてしまう。

 さらにステージ上での悪態でアルは逮捕されてしまい、どん底へ。マドンナとの関係に悩む彼だったが、マドンナがなんとパブロ・エスコバルに誘拐されてしまう。

 パブロ・エスコバルは、大ファンのアルをおびき出すためにマドンナを誘拐したのであった。アルは一人でパブロ・エスコバルのアジトに乗り込む。

 カルテルを壊滅させて、マドンナを救うアルだったが、マドンナの「一緒にカルテルを率いてコカインビジネスで世界を支配しよう」という言葉に嫌気がさし、彼女と別れることを決意する。

 かつての栄光を捨て、実家に戻り、家業の工場を継いだアル。

父親の望みを叶えてあげたと思ったアルだったが、決してそうではなかった。

 父親は彼を愛してないと思っていたが、それは全くの勘違いであったのだ。

父親はアルにとあるスケッチブックを見せる。父親は昔アーミッシュでアルと同じく変わり者で周りと馴染めず孤独な少年だった。そしてまたアルと同じくアコーディオンに魅了された少年であった。しかし、アコーディオンである事から周りからイジメられ、暴力を振るわれ、父親はアコーディオンを恨らむようになっていった。そしてそんな思いを息子にはさせたくないからと強く当たってしまったのであった。

 そして、父親がアーミッシュの時に書いた詩を見つける。アーミッシュの素朴な日々を書いたその詩をアルはメロディに乗せて、また名曲を生み出す。

それがあの「Amish Paradise」だ。

しかし、音楽賞の授賞式の日にアルは、マドンナが雇ったヒットマンの凶弾に倒れる。

1985年、我々が愛した、伝説のミュージシャン、ウィアード・アル・ヤンコヴィックはこの世から去り、映画は幕を閉じる。

 エンドクレジットでは、今作のために書き下ろした新曲「Now You Know」が流れる。その歌の中でも歌われているように、今作は一切の誇張やウソなどはなく、一部のシーンを除いてはほとんどが事実に基づいている。

 なお、パーティのシーンでジョン・ディーコンからライブエイドでのウェンブリー・スタジアムのライブに参加を依頼されて、アルが断るシーンがあるが、実際には、このライブにアルは参加したようである。

 

 というわけで、これがウィアード・アル・ヤンコヴィックによる自伝映画の中身である。ぜひ映像で細かなギャグや大物カメオ出演を楽しんでほしい。

HBOの新感覚コメディ『How To With John Wilson』

 HBOでまったくもって異色なコメディシリーズが放送されている。

タイトルは、『How To With John Wilson』

 


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※こちら予告を観て気に入った人は是非観てほしい。

 

 今作の監督であるドキュメンタリー監督のジョン・ウィルソンのナレーションとニューヨークの日常を映すエッセイフィルムだ。

我々はジョンが2年間ずっと撮り続けたニューヨークの映像を観せられる。

それは一見、ニューヨークの日常をただつなぎ合わせた映像に見えるが、その中には、ニューヨーカーの可笑しさや奇妙さ、気まずさなどが映し出され、やがてそれらが一つのストーリーを成していき観る者に笑いと時に感動を与える。


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※改札でメトロカードが反応しなくて悪戦苦闘するカイル・マクラクランが偶然映っている


 How to というタイトル通り、各エピソード、それぞれにテーマがある。
第1話では『How To Make Small Talk』と題して、人との世間話があまり得意ではないジョンが、カメラを回しニューヨーク中を歩きながら会話の糸口を探す。

 彼の考えた方法は、エサでおびき寄せる方法。レッド・ホット・チリ・ペッパーズと名前がそっくりなバグパイプバンド、レッド・ホット・チリ・パイパーズのTシャツを着てそれをエサに人から声をかけられるか検証する。


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第3話の『How To Improve Your Memory』では、記憶力を向上させようとさまざまな人と出会う中で、ひょんなことから、「マンデラ効果」という事実とは異なる記憶を不特定多数の人が持つ現象(80年代にマンデラ大統領が獄中死したと事実と異なる記憶を不特定多数の人が持っていたことから、その名づけられた)を信じる陰謀論者と出会い、そのコンベンションにジョンが参加することになる。


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 その他にも、もはやニューヨーク名物と言っても過言ではない、あらゆる場所にある足場について、撮影していくうちに足場のコンベンションに参加し、足場業界の裏側を知ってしまうエピソード、アメリカにもあった割り勘文化をリアルに映し出す中で、なぜかスポーツ審判の組合のパーティーに潜入することになるアポなし取材的なエピソード、さらにはアパートの管理人のおばあさんに最高のリゾットを作るために悪戦苦闘するちょっと泣かせるエピソード(このエピソード撮影中にコロナ禍に突入し、リアルなコロナ禍のニューヨークを観ることができる)など、なかなか言葉では面白さが説明しづらい作品だが、もし日本でも配信されることがあればぜひ観てほしいまったく新しいコメディ作品である。

 


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※こちらが最高のリゾットを作るエピソードの前半部分

ウィル・フェレルの“ほぼ”すべて

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 今回はウィル・フェレルの話。

 なんやかんやでキャラクターを演じるという部分で一番面白いコメディアンはウィル・フェレルだと思う。

 とにかくアドリブがすごい。そのキャラクターになりきって、セリフを言う技術はピカイチだ。一切ブレないし、リアリティがないキャラクターでもそのキャラクターから発せられているリアリティがある。アドリブ、即興というのは瞬時に面白い事を言うのではなく、台本が用意されてない状況で、いかにその場しのぎではない、あたかも事前に書かれていたようなキャラクター、状況へのリアリティを表現できるかが、即興の魅力だ。

 その技術にウィル・フェレルは長けている。それが彼の人気の秘訣だ。

ここでは、どのようにしてウィル・フェレルがハリウッドのNo.1コメディアンになったかをいつにもまして、濃い目にまとめてある。

 NETFLIXの『ユーロ・ビジョン歌合戦~ファイア・サーガ物語~』配信前にぜひこれを読んで、ウィル・フェレルの原点と魅力を再発見してほしい。

 

ウィル・フェレルになるまで

カリフォルニア州アーバインでロックバンドの『ライチャス・ブラザーズ』のキーボード奏者、リー・ファレルと教師の母との間に生まれた。

 しかし、父親の収入が安定しないなどの理由で8歳の時に両親は離婚。

フェレルは、母親と住むことになる。

本人は離婚を深刻にとらえていなかったようで、「クリスマスが2回だ!」ぐらいとしかおもっていなかったそうだ。その証拠に今も父親とは仲がいいそうだ。

高校時代は、フットボールに明け暮れるスポーツマンだったが、学校の人気者タイプではなかったが、朝の校内放送やクラス会で友達とコントを披露するなど徐々に笑いへの興味はこの頃から芽生え始めていた。

 南カリフォルニア大学ではスポーツ放送学を学び、いずれはスポーツキャスターになる事を考えながらNBCインターンなどをしていた。

 しかし卒業後、フェレルはスポーツキャスターではなくコメディアンを選ぶこととなる。

フェレルは、コメディクラブでスタンダップ・コメディを始めるが、なかなかうまくいかなかった。コメディアンの傍ら、舞台俳優、地方局のキャスター、映画やドラマのエキストラ、駐車場係、銀行窓口など仕事をしながら、LAの即興コメディ劇団The Groundlingsに所属する。キャラクターを演じることが上手かったフェレルはそこで実力をつけていく。

 

サタデー・ナイト・ライブ時代

 The Groundlingsには、のちに老舗コント番組『サタデー・ナイト・ライブ』で一緒になる、クリス・カッテン、シェリ・オテリと出会う。

 The Groundlingsでコメディの腕を磨きながら、オーディションを受ける日々。サタデー・ナイト・ライブのプロデューサー、ローン・マイケルズによって、番組のオーディションに呼ばれる。

 自信がなかったフェレルは、エンタメ業界の先輩でもある父親に相談。

父親からこう言われる

「お前に才能があるのは知っている。だが、運を掴めるかも必要だ。もし、それがダメならダメで構わない。他にいくらでも仕事があるのだから」

 エンタメ業界の苦労を知る父親からの助言でフェレルは今まであったプレッシャーから解放される。

 フェレルは、オーディションでいくつかのネタを披露する。中でも印象的だったのが、会社でこっそり猫になるサラリーマンのネタだ。


Will Ferrell's SNL Audition

 

この時は、好感触ではなかったため、もうダメだったと思っていたが、まさかの合格。

1995年のシーズン21でメンバーに。

 しかし、マイク・マイヤーズ、クリス・ファーレイ、アダム・サンドラーといった花形スター不在でのメンバー入りだった。

また顔見知りのメンバーもシェリ・オテリのみで、フェレルは他のメンバーともなかなか打ち解けられず、孤独な思いをした。

物静かな男、フェレルは、打ち合わせなどで「あの人しゃべらないけど大丈夫?」など周りのスタッフからだけでなくローン・マイケルズからも心配されるほどだった。

しかし、キャラクターになりきるとその才能は爆発し、周りからの評価は変わっていった。

さらに同期で入ったライターのアダム・マッケイと気が合い2人でタッグを組み、多くのコントを書き上げていく事となる。

バカバカしくイカれたコントをスピーディーに生産するマッケイとバカなキャラクターを演じさせたら右に出るものはいないフェレルのコンビは以降のシーズンを支える大黒柱になっていった。

後にメンバーとなるティナ・フェイエイミー・ポーラーなどは、どんなにリハで滑ったコントでも無理やりにでも面白くしようとするフェレルの姿がとても頼もしかったそうだ。

また、フェレルの人気を決定づけたのはブッシュ大統領のモノマネコント。

大統領候補者のころから目をつけていたそうで、クリントン大統領を忠実にモノマネしたメンバーのダレル・ハモンドとは違い、似ていることより面白さを追求したチェビーチェイスのフォード大統領のスタイルで演じていたという。

ここでいくつかフェレルのコントを紹介しよう。

 

〇セレブリティ・ジャパディー

 アメリカの老舗クイズ番組ジャパディーのコント。

 フェレルは司会のアレックス・トベックを演じている。

 バカすぎるセレブとトベックに嫌がらせをし続けるショーン・コネリーが魅力のコント。

 フェレルはめずらしくストレイトマン(日本でいうツッコミのようなもの)を演じている。


Celebrity Jeopardy!: French Stewart, Burt Reynolds, & Sean Connery - SNL

 

〇デルコ社 猫用おもちゃ

 このコントは、フェレルがオーディションで見せた、会社でこっそり猫になる男のネタをベースに作られたコント。ヴィンス・ボーンの猫演技も必見。


Delco Cat Toys - SNL

 

〇極悪ボス

 パワハラのバラメーターが完全に壊れた上司のコント。

 フェレルのパフォーマンス力とマッケイによる後半のイカれた展開は絶品。


Evil Boss - SNL

 

〇もっとカウベル

 フェレルといえば、これという伝説のコント。ブルー・オイスター・カルトの「(Don’t fear)the reaper」のレコーディング中メンバーからの反対を押し切って「もっとカウベルを!」とプロデューサーから言われるコント。それだけといえばそれだけだが、ファレルとクリストファー・ウォーケンのパフォーマンスが最高。


More Cowbell - SNL

 

 『サタデー・ナイト・ライブ』以外でもフェレルとマッケイは動き始める。

手始めに、同じNBCのビルで撮影しているコナン・オブライエントーク番組『レイト・ナイト・ウィズ・コナン・オブライエン』に2人で乗り込み、こんなのをやりたい!とコナンとスタッフに直談判し、ローン・マイケルズに内緒で出演する。


Will Ferrell As Scrub-A-Dub - "Late Night With Conan O'Brien"

 

 台所用洗剤スクラバダブのキャラクター、スクラバダブが商品の宣伝に駆け付けるが、セット裏で賭博をするわ、観客とセックスするなどやりたい放題する。

 

 ほぼ思い付きで行ったことだったが、番組で好評になり、番組に無茶苦茶な内容で出演する事が多くなる。

2002年に名実ともに『サタデー・ナイト・ライブ』でトップになったフェレルは、映画へキャリアを移すために番組を卒業。ファレルとマッケイは、映画の脚本を書き始める。

オースティン・パワーズ』シリーズや『ズーランダー』(01)、『ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲』(01)の出演などで映画でも人気は出ていたフェレルだったが、2人で書いた脚本にはどこの映画会社も興味を示さなかった。一つは、カーディーラーを主人公にした脚本。

そして、もう一つが俺たちニュースキャスターである。

ちなみにその『俺たちニュースキャスター』の初稿のストーリーは、こうである。

ニュースキャスターたちを乗せた飛行機が、山に墜落する。

なんとか生き延びたニュースキャスターたちだったが、何匹かのサルとマーシャルアーツの武器が彼らと一緒に飛行機に乗せられていたため、ニュースキャスターたちは手裏剣を武器に襲ってくるサルたちと戦いながら、山から脱出しようとするというものだった。

この初稿を読んだスタジオ側からは二度と送ってくるな!と激怒された。

そんな中トッド・フィリップスが監督した『アダルト♂スクール』が大ヒットし、ウィル・フェレルの映画に需要があると見たドリーム・ワークスが2人にアプローチを始める。

 

〇『俺たち』の旅

製作にジャド・アパトーデイビッド・O・ラッセを迎え、初稿から大筋の改定がありながら、『俺たちニュースキャスター』の撮影がスタート。

実在の女性ニュースキャスター、ジェシカ・サヴィッチの自伝を基にした話に変更。

 『サタデー・ナイト・ライブ』で培った、保守派のバカなアメリカ人を演じる能力を遺憾なく生かし、70年代のサンディエゴを舞台にテレビ局にやってきた女性ニュースキャスターのヴェロニカをセクハラ、パワハラで追い出そうとする、男性ニュースキャスター、ロン・バーガンディを演じている。

最初の撮影では、アラーム・クロックという強盗団(おそらくパトリシア・ハースト事件のシンバイオニーズ解放軍がモデル)が自分たちの声明を発表するためにロンとヴェロニカを誘拐するというサブプロットが絡んでいたが、どうにもこれが作品のトーンと合わずそのシーンの多くをカットし再撮影をして、おなじみの動物園の熊とのバトルとパンダの出産シーン差し替えられた。

アラーム・クロックが出るバージョンは、マヤ・ルドルフやエイミー・ポーラーなども出演しており、これだけで映画約1本分の長さだったため、未公開シーンなどで再編集した別バージョン『Wake Up, Ron Burgundy: The Lost Movie』として北米版の2枚組エディションのDVDに特典映像として収録された。

 『俺たちニュースキャスター』は、大ヒットとまではいかなかったもののこの作品でフェレルは一躍スターの座に駆け上る。


Wake Up Ron Burgundy - Cannibalism Scene

 

2005年には、『ペナルティ・パパ』奥さまは魔女、そしてプロデューサーズではゴールデングローブ賞助演男優賞にもノミネートされた。

2006年には、アパトーが製作、マッケイが監督、ファレルが主演と脚本をという『俺たちニュースキャスター』と同じ編成で、NASCARを舞台にしたスポーツ伝記モノ映画『タラデガナイト~オーバルの狼~』を製作。

主人公の傲慢なレーサー、リッキー・ボビーをファレルが演じ、彼の相棒、カルをスケジュールの都合で『俺たちニュースキャスター』に出られなかった事を悔やんでいた、ジョン・C・ライリーが演じている。この作品は、アメリカでは大ヒットし、さらに同じ年に公開された『主人公は僕だった』ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされた。

この年にファレルは、マッケイとともにプロダクション、「ゲイリー・サンチェス」を立ち上げる。

 2007年には、男性ペアのフィギュアスケーターの映画俺たちフィギュアスケーターが大ヒット。さらに、ネットコンテンツにも乗り出し、動画サイト『funny or die』をマッケイとともに開設。

しかし、開設したはいいが肝心のコンテンツがないという事態に陥り、フェレルの息子の誕生日パーティー中に、マッケイの小さいのによく喋る賢い娘、パールにその場で考えたセリフを覚えさせて撮影。

『The Landlord』という動画を配信。この動画が話題になり『funny or die』のサイトも一躍有名になる。


The Landlord [UNCENSORED]

 

 2008年には、NBAの2軍的なポジションのABAのバスケットボールプレーヤーたちの活躍を描いた『俺たちダンクシューター』が公開。

同じ年には『俺たちニュースキャスター』と同じ体制で『俺たちステップ・ブラザーズ~義兄弟~』(※作品の詳細はこちら)が公開。

 40歳のニートの男たちが親の再婚をきっかけに義兄弟になるというストーリー。

2009年には、70年代のTVドラマ『Land of the Lost』のリメイク『マーシャル博士の恐竜ランド』が公開されたが、子供、ファミリー向け映画にもかかわらず、下ネタや大人向けギャグが多くイマイチ狙いがちゃんと定まらない映画になり、大ゴケしてしまう。

 映画はヒットしなかった年だったが、フェレルはブロード・ウェイでヒット作を生み出す。

それは、ブッシュ大統領の退任後1カ月で作られた作品。

 『You’re Welcome America. A Final Night with George W Bush』である。

この作品は、退任したブッシュ大統領が自分の功績を振り返りながら、退任までの思いをモノローグで語っていく一人芝居で、作・演出はアダム・マッケイが務めている。

 この作品は、その劇場の売り上げ記録を塗り替えるほどヒットし、トニー賞にもノミネートされた。


Will Ferrell : You're Welcome America ( Dick Cheney and the goat devil ]

ディック・チェイニー。もっとも力がある大統領・・・じゃなくて副大統領。カリスマ的な男で、ある男の顔をショットガンで撃ったが、そいつがチェイニーに謝罪した。(中略)ある日、ホワイトハウスの地下に行くとチェイニーが魔法陣の中で山羊頭の悪魔に犯されていた。チェイニーの目は真っ黒で輝いていてアンモニア臭い息を吐きながら千年近く使われていない謎の言葉で話しかけてきた。
『〇×▽□@#$!』。私はとっさに逃げ出したよ」

 

 2010年には『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』が公開。

マッケイとフェレルが選んだテーマはバディ刑事もの。

 相棒役にマーク・ウォールバーグを迎えて、敵を麻薬王、テロリストなど普通の刑事ものにありがちなものにはせず、当時の金融危機を起こしたウォール街を設定し、いつも以上の社会風刺の要素を加え、ファレルの役もいつもとは違い真面目で穏やかなキャラクターにしている。

 また、日本未公開だが、レイモンド・カーヴァーの短編『ダンスしないか?』をベースにして作られた『Everything must go』も公開。

 アル中が原因で仕事を失い、妻も家も失った男が、妻が庭に放り出した自分の家財道具一式を自分の部屋のように並べて、その庭で生活し始めるというストーリー。

 いつものフェレル節は抑え目ながらも『主人公は僕だった』の時の抑え目演技と『俺たちステップ・ブラザーズ』のグーダラ演技の両方を楽しめるめずらしい作品になった。

 また、初の3Dアニメの声優として、スーパーヒーローの悪役を主人公にした映画『メガ・マインド』に出演。SNLの後輩のティナ・フェイともここで共演する。

 ティナ・フェイ『30ロック』The Officeにゲスト出演するなどTV出演も再び精力的に行い始めた。

 

 2012年には、全編スペイン語メキシコ映画に自分がひょっこり出演していたら面白いだろうという突拍子もないアイデアを実現するために1カ月間でスペイン語を習得して撮影に臨んだ超珍作『俺たちサボテン・アミーゴ』は、ラテンアメリカのメロドラマ、テレノベラの世界観とB級アクション映画をミックスさせた作品。

今までのフェレルの映画とは一線を画するもので、どちらかといえば、クエンティン・タランティーノの『デス・プルーフ』のような作品で、普通のフェレルのコメディとは思わずにそういった目線で観ると楽しめる一本だ。

 

 2013年には、フェレルとマッケイがパラマウント口説き続けて、やっと実現した『俺たちニュースキャスター』の続編俺たちニュースキャスター史上最低?!の視聴率バトルinニューヨーク』が公開される。

 前作のサンディエゴからニューヨークへ舞台を移し、24時間のニュースネットワークCNNのパロディのGNNでニュース番組をロンたちニュースチームが担当するというストーリー。

 アメリカのメディアの変容やFOXなどの右翼系メディアを皮肉たっぷりに描く一方で、ロンがスケート中に転倒し、失明するという1978年のスケート映画『アイスキャッスル』のパロディをやるなど無茶苦茶なギャグを入れまくった結果、119分の劇場公開版と143分のバージョンのスーパーサイズバージョンの両方が生まれた。

 スーパーサイズバージョンでは、劇場公開版にはなかった、ミュージカルシーン、サメのボビーの飼育シーン、ハリソン・フォードのハイエナ男への変身シーンなどが追加になっている。残念ながら、日本では119分のバージョンしか観ることはできない。

 この作品で、アダム・マッケイとのコンビでの仕事はストップする。

 

〇新・『俺たち~』の旅

以降フェレルは、『俺たちサボテン・ブラザーズ』の脚本家アンドリュー・スティーリー、『アザー・ガイズ』の脚本家クリス・ヘンチーとコンビ組むようになっていく。

 マーク・ウォールバーグとの再びのタッグ作『パパVS新しいパパ』(05)は続編も作られるほど人気になる一方で、エイミー・ポーラーとの共演作『カジノ・ハウス』(17)やジョン・C・ライリーとの待望のタッグ作『俺たちホームズ&ワトソン』(18)などことごとく、興行的にも批評的にもうまくいかない作品が続いてしまう。

 しかし、ゲイリー・サンチェスでのプロデュース作は好評で、映画ではバイス(18)、『ブック・スマート』(18)、ハスラーズ』(19)がヒットだけでなくゴールデングローブ賞アカデミー賞にノミネートされるほど批評的にも評判がよくTVシリーズもHBOの『サクセッション』、NEFLIXの『デッド・トゥ・ミー』などの評価の高い作品を多く手掛けている。

 

 最新作はユーロ・ビジョン・ソングコンテストを舞台にした映画『ユーロ・ビジョン歌合戦~ファイア・サーガ物語~』が6/26に配信される。

売れないミュージシャンの2人がアイスランド代表としてユーロ・ビジョン・ソングコンテストに出場するというストーリー。

フェレルのスウェーデン人の妻の実家でユーロ・ビジョン観て以来、コンテストの虜になって99年には映画化しようと思っていたが、アメリカでのコンテストの知名度が低いため実現しなかったが、この度NETFLIXで約10年越しの実現となった。

フェレルにとって初めてのNETFLIX主演作であり、現状最後のアダム・マッケイ製作のフェレル作品にもなる。

 


『ユーロビジョン歌合戦 〜ファイア・サーガ物語〜』予告編 - Netflix

 

 また2020年にマッケイとフェレルはビジネスパートナーの関係を解消し、「ゲイリー・サンチェス」も解体。女性の映画監督を増やすために立ち上げた兄弟会社の「グロリア・サンチェス」は、引き続き活動をしている。

 

 マッケイとの作品でないとイマイチ能力が発揮できないところがあるフェレルだが、彼もコメディアンとして潮時なのかというと決してそうではない。

 たしかにマッケイでない作品の時は、ストーリーやそれ以外の演出や画作りがどうもイマイチだが(マッケイがオスカー監督にまでになるのだから一般の監督とはポテンシャルが違ったのだと後々になってわからされるのだが)、フェレルのアドリブはまだ冴えている。

 その証拠に、フェレルの喋り一本で勝負する、ポッドキャストシリーズの『ザ・ロン・バーガンディ・ポッドキャストは近年のフェレル作品では断トツで面白い。

 その名の通り、『俺たちニュースキャスター』のロン・バーガンディが現代でポッドキャストをやるのだが、ポッドキャストをイマイチわかってないロンが、エレベーターに閉じ込められたり、ゾディアック・キラーの犯人を突き止めようとしたり、心霊現象が起きるガレージから番組を録音するなど、喋りだけで見せる構成ゆえにフェレルのアドリブが冴える内容になっている。

 


Ron Burgundy Is Not Afraid Of Cannibalism In An Emergency

 

 今後もフェレルの作品は多く準備されている。まだ名実ともにトップコメディアンである。いずれは、またマッケイとの作品も戻ってくるかもしれない。

マッケイ曰く『俺たちニュースキャスター』の3作目のアイデアはあるそうだ。

ストーリーはイラク戦争の時のアメリカ、愛国保守になっていったメディアの話で再びニュースチームがカムバックするそうだ。

 アメリカ情勢が自分のコメディよりもまともな状況に戻ればバカな映画を撮りたいと言っているので、アメリカ情勢がよくなる事と合わせて期待はしたい。

 

参考文献

WTF podcast Episode450 Will Ferrell

Off-camera with Sam Jones Guest Will Ferrell

 

https://www.thefamouspeople.com/profiles/john-william-ferrell-3179.php

https://www.biography.com/actor/will-ferrell

https://www.aceshowbiz.com/celebrity/will_ferrell/biography.html

https://www.imdb.com/name/nm0002071/bio

https://www.fandango.com/people/will-ferrell-211430/biography

https://ew.com/tv/2019/11/22/12-best-will-ferrell-sketches-saturday-night-live-more-cowbell-harry-caray/

最強の女性コメディアン、ティナ・フェイとエイミー・ポーラーのほぼすべて

 

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今回は自分が一番好きで尊敬してやまないアメリカのコメディアン、ティナ・フェイエイミー・ポーラーについて書きたいと思う。

 2人は今やアメリカでトップのコメディアンだ。けれども、彼女たちについての資料はほとんどないし、取り上げられる機会も少ない。

 今日本でも、女性であるがゆえにネット上で誹謗中傷が書かれたり、政治の事を語ろうとすれば女はわかってないからとマウントを取られたりと嫌な思いをしている人もたくさんいるだろう。

ティナもエイミーも女性であるがゆえに軽んじられたり、嫌がらせを受けたりもした。

しかし、2人はそういった抑圧に対して、ユーモアを武器に戦っていった。

もしロクデモナイ男たちや社会に嫌な思いをしている人がいるなら、これを読んで少しでも何かの励みになるとすれば嬉しく思う。

 これは史上最も面白くて優しくて美しい2人のコメディアンの話である。

 

〇2人の生い立ち

 ティナ・フェイは1970年にペンシルヴェニアで生まれる。

モンティ・パイソンサタデー・ナイト・ライブなど幼い時からコメディが好きだった彼女は高校では演劇部入り、学校新聞で風刺記事を描くなどかなりのオタク系の女子だった。その事と幼いころに犯罪者に切り付けられたアゴの傷で周りの女子からいじめられる事もあった。

1971年にマサチューセッツで生まれたエイミー・ポーラーも『サタデー・ナイト・ライブ』が好きで特にギルダ・ラドナーに憧れていた。

エイミーも高校時代に演劇部に入り、さらには生徒会やサッカーやソフトボールなどスポーツにも精を出していた。

 

〇インプロとの出会い

ティナもエイミーも大学を卒業したのちに、インプロを学ぶためにインプロヴオリンピックに加入する。そこの創設者のデル・クローズを師事したティナとポーラーは、意気投合して、一緒にショーを行い、セカンド・シティの地方巡業にも一緒に回った。

友情をはぐくんでいった2人だったが、1996年にエイミーは、アダム・マッケイらが中心となって作った、アップライト・シテチズンズ・ブリゲイト(UCBにマッケイの代わりとして所属する。シカゴからニューヨークへ拠点を移す。

 一方、シカゴに残ったティナはセカンド・シティを中心に活動するが、1997年に『サタデー・ナイト・ライブ』のライターとして雇われ、ニューヨークへ。

 

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〇夢のサタデー・ナイト・ライブ

 ティナの初めてのライターとして仕事をしたのはシルベスタ・スタローンがホストの回だった。コントは採用されなかったが、別の仕事を任された。

 スタローンが何を言っているのか聞き取れないから、もっとはっきり喋ってくれとお願いしに行く仕事であった。幸い、スタローンは好意的で事なきを得た。

しかし、その後ティナにはより嫌な事が起きた。

オープニングのモノローグでのエイドリアンの役を誰がやるか。

ティナは女性メンバーのシェリ・オテリがピッタリだと感じていた。

しかし、エイドリアンの役は男性メンバーのクリス・カッテンが選ばれた。カッテンよりシェリの方が面白く演じられるはずなのに男に女性を演じさせるという安易な笑いに逃げたことや女性差別がティナには悔しかった。

その後、1999年にティナは、アダム・マッケイにコントの総括などするライターの長、ヘッド・ライターに指名され、女性で初めてのヘッド・ライターに就任する。

 2000年になると、ライターと並行してキャストにもなり、ジミー・ファロン共に、『サタデー・ナイト・ライブ』のニュースパロディコーナー、「ウィークエンド・アップデイト」のアンカーに。

 翌年には、セカンド・シティの音楽監督だったジェフ・リッチモンドと結婚する。

サタデー・ナイト・ライブ』のコーナー「ウィークエンド・アップデイト」より

 

 UCBのメンバーと共にニューヨークに行ったエイミーは、コナン・オブライエンの深夜トークショー『レイトナイト・ウィズ・コナン・オブライエン』のライターに見いだされ、UCBのメンバー共々、番組にサブレギュラーで出演。

エイミーは、コナンの相棒、アンディの妹で、コナンの事が好きすぎて番組の進行を邪魔してくるティーンの役を演じた。


Andy's Little Sister Invited Conan To Her New Year's Party - "Late Night With Conan O'Brien"

その演技を気に入られ、アダム・サンドラー製作、ロブ・シュナイダー主演の『デュース・ビガロウ、激安ジゴロ』(98)に出演。

ケーブルのコメディ専門TV局、コメディ・セントラルにてUCBのメンバーをメインにしたコント番組『アップライト・シチズンズ・ブリゲイド』(98)を放送するも3年で終わってしまう。ちなみにティナからは『サタデー・ナイト・ライブ』のメンバーになるように勧められていたが、エイミーはUCBのためにオファーを断り続けていた。

だが、ティナの後押しもあり、エイミーは2001年にセス・マイヤーズらと共に『サタデー・ナイト・ライブ』のキャスト入りを果たす。

さらにこの年にエイミーはコメディアンのウィル・アーネットと結婚(のちに離婚)。

私生活は順調だった一方で『サタデー・ナイト・ライブ』の1年目はというと、エイミーはクビにならないようにとにかく必死でストレスやプレッシャーでマヤ・ルドルフやプロデューサーのデスクに行っては泣いていたという。

 

〇パートナー・イン・クライム

 ある日エイミーがセス・マイヤーズと大声で下ネタのネタ作りをしていると、

ジミー・ファロンが「やめな。そんな事言うのは可愛くもないし、面白くない」と怒るとエイミーはその言葉にキレて「あんたが好きかどうかなんて関係ない!」と言った。

 この言葉がティナの考えを変えさせた。

 女性だからといって可愛くなる必要もないし、男性の恋人役をやる必要もない。

自分が面白いと思う事をやるだけ。誰の意見も関係ない。

 ティナのヘッド・ライターとしての孤独をエイミーは癒してくれた。

ティナはエイミーという最高のパートナーを得て、男性主義的な『サタデー・ナイト・ライブ』を変えていった。エイミーの他にもティナには強い仲間がいた。マヤ・ルドルフレイチェル・ドラッチアナ・ガスチャー、ライターのポーラ・ペルなどのたくましく面白い女性たちだ。

 ティナはライターとしてエイミーにたくさんのコントを提供し、一方のエイミーも彼女の演技力で沢山のキャラクターを演じ2人の友情はさらに強いものとなった。

 ティナは普通のキャラクターを演じる事に徹し、エイミーは、奇抜なキャラクターを演じた。この正反対の組み合わせは、まるでサタデー・ナイト・ライブ第1期のジェーン・カーティンギルダ・ラドナーのようだった。

さらに2002年にティナは『サタデー・ナイト・ライブ』のライターとしてエミー賞を獲得。また2004年には、ティナが学生時代にいじめを受けていた実体験をベースに『女の子って、どうして傷つけあうの?』を脚色した映画ミーン・ガールズが大ヒットする。ティナは主人公の学校の先生、エイミーも学園の女王の母親役を演じた。


ティナ・フェイが書いたCMコント

 

そして、ジミー・ファロンが『サタデー・ナイト・ライブ』を卒業することになり、『ウィークエンド・アップデイト』のファロンの枠の後釜にティナはエイミーを推薦。

 こうして『ウィークエンド・アップデイト』初のW女性アンカーという座組が誕生する。

これによりティナとエイミーは世間的にもコンビとして認識され始める。

 そして2006年にティナは『サタデー・ナイト・ライブ』を卒業する。

ティナが自分のライター体験を基にした、新しいドラマシリーズ『サーティー・ロック』(06)のスタートするためである。

 エイミーは引き続きキャストとして残り、身重になっても番組に出演し話題となった。


W女性アンカーとなった時のウィークエンド・アップデイト

 

ティナは『サーティー・ロック』の忙しさから『サタデー・ナイト・ライブ』に戻るつもりはなかったが、2008年にある事件が起こる。

 旦那のジェフがTVを見ていたところ、ティナにそっくりな女性が映っていた。

その女性とは、08年の大統領選の共和党候補者、ジョン・マケインが副大統領候補として指名した“サラ・ペイリン”だ。

 最初は『サタデー・ナイト・ライブ』への復帰には乗り気ではなかったティナだが、盟友のセス・マイヤーズやヒラリー・クリントンのモノマネが十八番だった、エイミーなどの後押しもあって、番組に復帰する。

 リベラルのティナ・フェイにとっては失言やおバカ発言で話題になった共和党サラ・ペイリンは好きになる事は出来なかったが、彼女に攻撃的になるようなコントになる事は避けようとした。

 セスが用意していたエイミー演じるヒラリーとティナ演じるペイリンのコント台本の一部を書き換え、2人がただ喧嘩しているコントだけのではなく、そこに女性政治家が受けるセクシズムのネタを入れた。


Sarah Palin and Hillary Address the Nation - SNL

 

ティナの演じるサラ・ペイリンはクオリティの高さはフランスの新聞が間違ってティナのコント写真を使ってしまうほどだった。

 ティナのモノマネはペイリン自身をいい意味でも悪い意味でも有名にさせた。

 ペイリン効果で視聴率がアップした『サタデー・ナイト・ライブ』はさらなるアップを狙おうと、サラ・ペイリン本人をゲストで登場させるという、いわゆるご本人登場をやろうとした。ペイリン側は乗り気だった。

 しかし、ティナは悩んだ。もしティナとペイリンが共演してコント終わりにハグでもしようものなら、共和党の票に貢献してしまう。

 一方で、ペイリンとの出演を拒んでティナが出演しなければそれはそれで、また問題だ。

ペイリンの出演を渋々承諾したティナにはもう一つ気になる事があった。

 リベラルの観覧客が多い『サタデー・ナイト・ライブ』にペイリンがスタジオに登場しようものなら、ブーイングが起こる可能性がある。

 それをペイリンの子供たちが見たらどう思うか。

 ティナは、ペイリンの記者会見のコントを本人がプロデューサーのローン・マイケルズと一緒に廊下で見ていて、アレック・ボールドウェインがペイリンをティナと勘違いするというコントを用意した。

 それで、観覧客にはその場にいるのか録画なのかわからないようにしてブーイング対策をとった。

 ティナはペイリンに対して最大限の配慮をしつつ、彼女を演じた。


Gov. Sarah Palin's Press Conference - SNL

 

しかし、一部からはやりかたが、意地悪だなどの批判もあった。

 代々、男性キャストがカーター大統領やクリントン大統領、ブッシュ大統領など演じてどんなにバカにしても批判はなかったにもかかわらず、ティナのペイリンにはメディアからの批判もあった。

 ティナはどちらかといえば、他のキャストが政治家を演じてきた時よりも配慮してペイリンを演じて、彼女のパーソナルな部分を調べてそこは傷つけないように配慮して、演じていたにも関わらず批判がったのだ。

ティナは女性だから批判されているのだと気づいた。

サタデー・ナイト・ライブ』を変えられても世間を変えるのはまだ難しかった。

その証拠にジャーナリストのクリストファー・ヒッチェンズ「女性はなぜつまらないのか」という記事をヴァニティ・フェアに寄稿して物議を醸した。

 その記事に反論するためティナとエイミーは先輩のサラ・シルヴァーマンと共に女性コメディアン仲間を引き連れて、ヴァニティ・フェアの特集記事を乗っ取った。

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 さらに2008年には映画『ベイビー・ママ』で2人は主演を演じる。

そして、2009年にエイミーも『サタデー・ナイト・ライブ』から卒業する。

 

〇別々の道へ

ティナは2006年から自身のライターでの経験を基にして作ったコメディ・ドラマ『サーティー・ロック』をスタートさせる。

 ティナは『サタデー・ナイト・ライブ』にいた時と同様に夜のコメディ番組のヘッド・ライター、リズ・レモンを演じる。

 『サタデー・ナイト・ライブ』のプロデューサーのローン・マイケルズをモデルにした、リズの理解の無い上司ジャック・ドナギーは『サタデー・ナイト・ライブ』で数多くホストを務めた、アレック・ボールドウェインが演じている。

 ワガママで横柄な黒人コメディアン、トレイシーを『サタデー・ナイト・ライブ』時代の盟友、トレイシー・モーガンが演じている。

 そして、リズの売れない時代からの友人で番組の看板女優ジェナをジェーン・クラコウスキーが演じている。

 このジェナは、いかにもティナがエイミーにやらせていたような頭の悪いルッキズムに囚われた女性キャラクターである。

 彼らとやる気のないライター達との番組制作におけるすったもんだと対立しながらも理解し合うリズとジャックの姿を描いたのがこの『サーティー・ロック』である。

 番組のプロデューサーは、ローン・マイケルズが担当し、ライターには『サタデー・ナイト・ライブ』でイカれたコントをよく書いていたロバート・カーロックを呼び、音楽は旦那のジェフが担当。

またクリス・パーネル、ポーラ・ペル、ジェイソン・サダイキスなどの『サタデー・ナイト・ライブ』時代の仲間も多数ゲスト出演した。

 ショウビズ界の裏側をネタにしたブラック・ジョークはもちろんこの後のティナ・フェイ製作の作品に共通する、ナンセンスギャグとセクシズムを扱ったギャグの数々は評判を呼び、エミー賞を3年連続で受賞するなど人気ドラマになった。


30 Rock - Liz Lemon Loves Food

 

一方のエイミーは、『サタデー・ナイト・ライブ』時代の盟友で番組を卒業してアメリカ版『The Office』のライターをしていたマイケル・シュアと『ザ・シンプソンズ』や『The Office』の製作を務めたグレッグ・ダニエルズと共にParks and Recreationをスタートさせる。

このドラマは、架空の街、ポウニーの公園管理課を舞台にしたストーリーで『The Office』のようなモキュメンタリースタイルで撮影された。

 エイミーは、公園管理課で働くレズリー・ノープを演じている。

また、彼女の上司で政府や人間が大嫌いなリバータリアンの男、ロン・スワンソンをニック・オファーマンが演じている。

 周りを固めるキャストには、クリス・プラットやアジズ・アンサリ、またUCB所属のオブリー・プラザ、ベン・シュワルツなどUCB所属の面々も多く起用した。

 『The Office』をベースにしたユーモアで、『サーティー・ロック』のようなドライさやブラックさよりもハートウォーミングなストーリーに重きを置いている。

 最初のシーズンの評判は芳しくなかったが、テコ入れによりドライなユーモアよりハートウォーミングなストーリーにしてシーズンを重ねるごとに人気を博していった。

 


Leslie, the Foodie - Parks and Recreation

 

サタデー・ナイト・ライブ』時代、ヘッド・ライターとして周りを引っ張っていかなければいけない、自分の意思を突き通さなければいけないというティナのあり方と周りと協調して進んでいくというエイミーのあり方が、『サーティー・ロック』と『Parks and Recreation』の作家性の違いを生んだのだと思われる。

 

『サーティー・ロック』も終わった頃、ティナはNETFLIXで、『The Office』に出演していたエリー・ケンパーを主演にしたドラマの制作を始める。

 アンブレイカブル・キミー・シュミット』は、『サーティー・ロック』でも組んだ、ロバート・カーロックと共に、15年間教祖という男に拉致監禁されていた女性キミーがニューヨークで新しい暮らしを始めるというコメディ・ドラマだ。

 キャストは『サーティー・ロック』に出ていた、ジェーン・クラコウスキーとタイタス・バージェスのキャラクターをそのままスライドさせて、登場させた。

 『サーティー・ロック』と同じナンセンスなビジュアルや会話のジョークの応酬で、

またトランプ政権、me,tooムーブメントなど時期でもあったため人種差別やルッキズム、セクシズムをネタにしたギャグは『サーティー・ロック』以上に増えていった

 セクシズムギャグとしては、主人公たちを監禁したメニニズムのバカな教祖、セクハラするマペットのキャラ、インセルの男、セクハラの取材でローナン・ファローが出てくるなどキツめの風刺が盛りだくさんだが、ティナによるメッセージもより明確なものになっている。

 女性が抑圧される社会、型にはめられてしまう社会に向き合う事、声を上げることの大切さ、そして男性の持って生まれたセクシズムに対してどうすればいいのか

 ものすごくフザけたギャグの中にキチンとこのようなメッセージや問いかけを潜ませている。

 シーズンは終わったものの2020年の5月に視聴者が展開を操作して選ぶ、インタラクティブ版で復活。

「空手」や「爆破する」など本筋とは絶対関係ないフザけた選択肢がついていてストーリーが全く進まないナンセンスさが魅力だ。

 もちろん、ルイスCKの事などセクシズムをネタにしたギャグも健在。

 また同じ作風とテーマ性で『グレイト・ニュース』というニュース番組の局員とインターンで局にやってくるその母親とのやり取りを描いたコメディ・ドラマでもティナは製作と出演をしている。


アンブレイカブル・キミー・シュミット予告編 - Netflix [HD]

 

 一方エイミーもUCBのイラーナ・ウェクスラーとアビー・ エイブラムスの2人が主演するコメディ番組Broad Cityの製作を担当する。

そして『Parks and Recreation』が終わるとNetflix『ロシアン・ドール』の製作と脚本を担当することになる。

 『Parks and Recreation』とは、うって変わって、死んではその1日をタイムループする女性を主人公にした、ダークなファンタジードラマである。

 主演を演じるのはナターシャ・リオン

このように2人はそれぞれ別の方向に歩んでいったが、

2015年には久々に2人で出演した映画『シスターズ』NETFLIXで配信されたエイミー・ポーラーの長編初監督作品『ワイン・カントリー』(19)など2人での活動が終わったわけではない。


『ワイン・カントリー』予告編 - Netflix [HD]

 

そして、2021年のゴールデングローブ賞の司会にティナとエイミーのコンビが6年ぶりに復帰する。

 これまで計4回のゴールデングローブ賞の司会にて以下のようなジョークを言った。

 

「『ゼロ・グラビディ』が作品賞にノミネートされています。ストーリーは、ジョージ・クルーニーが自分と同じ年の女性と一緒にいるぐらいなら宇宙空間で死ぬ方がましだというものです」

 

「『ゼロ・ダークサーティ』での拷問シーンでの真偽について語るつもりはありませんが、一つ言えるのは、監督のキャサリン・ビグローはジェームズ・キャメロンとの結婚という拷問に3年間も耐えたという事です」

 

アン・ハサウェイは素晴らしい演技を『レ・ミゼラブル』で見せてくれました。

あの孤独で見放された姿は、あなたがジェームズ・フランコアカデミー賞の司会をした時以来です」

 

これらのギリギリのセレブいじりのジョークをニコニコしながら言う憎めない2人の姿が好評で視聴率も良かった。この時の2人が一番面白いという人も少なくない。来年拝見どんなジョークを言うのか今から楽しみで仕方ない。今年は例年以上にたっぷりネタがあるはずだ。

 

 このようにざっとティナ・フェイエイミー・ポーラーが歩んできた道を振り返っていった。2人は自分たちを比べたり競い合ったりはしない。

 困った時や助けが必要な時はお互い協力し合って前に進んでいくのが2人のやり方だ。

 彼女たちだけじゃなく多くの女性たちがそうやって進んできたのだろう。

男や男社会に邪魔をされながらも。

その昔、日本で発売されたサタデー・ナイト・ライブの本に「ティナ・フェイ」がヘッド・ライターになってからつまらなくなったという一文が書かれていたことがあった。

 その著者はもう亡くなったのでとやかく言うつもりはないが、正気だったのだろうか。

 2人を見てわかるように女性は最高に面白い

ティナとエイミー以降の女性コメディアンたちもとても面白い。

 もちろん、彼女たち以前の女性コメディアンたちも。

 これからも女性は面白くない、政治的な発言は控えるべきだ、つつましいのが一番だと言ってくるロクデナシどもは後を絶たないだろう。

 それでも、それらの言動や抑圧を女性たちは打ち破っていくはずだ。

エイミーが言ったようにそいつが好きだろうが嫌いだろうが関係ない。

 誰から認められる必要もないし、誰かの意見も聞かなくたっていい。競い合う必要だってない。

 自分がそれを面白いと思うかどうかが一番大事なのだ。

 男性だろうが女性だろうが関係ない。面白いというものに性別なんかは関係ないのだ。

 その大切な事をティナとエイミーは我々に教えてくれたのだと思う。

 

最後にティナ・フェイの作品で一番オススメなのは日本でもシーズン3までは観れる

『サーティー・ロック』であろう。本当に笑わせてくれる。

エイミー・ポーラーのおススメは『Parks and Recreation』だが、日本ではDVDを輸入するなりしないと観る事はできない。でもこの作品を強くおススメしたい。

アダム・マッケイ、オスカーを獲りマーベルから全作品の監督候補と言われた男。

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現役最高の映画監督といえば、誰が浮かぶだろう。

スピルバーグ?スコセッシ?それともクリストファー・ノーラン

アダム・マッケイはどうだろう。

『マネー・ショート』バイスですっかりアカデミー賞監督の仲間入りを果たした、アダム・マッケイ。

 『アントマン』でのエドガー・ライトの急な降板によって起こった大混乱を収束するためにポール・ラッドの指名により脚本家として参加し、その功績を称賛され、マーベルスタジオの社長でプロデューサーのケヴィン・ファイギからは、「全作品の監督候補」とまで言われて、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの3作目の監督を打診されたほどの今、波に乗っている監督である。

 しかし、彼の原点はコメディ。おそらく彼は、今いるほかのどの監督よりもエッジの利いたギャグを作品に入れられるナンセンスギャグの天才であろう。

 彼は一見簡単そうに見えて、最も難しいジャンルであるコメディを非常にダイナミックに時に繊細に計算し作り上げてきた。

 よく映画で褒められるのは、すごいワンカット撮影やCGを使っただとか使わないだとか主人公のキャラクター性をどこまで掘り下げたかだとかそういった点が評価されるが、コメディは笑えるか笑えないかだ。どんなに素晴らしいカットが撮れてもCGに頼らないこだわりの撮影法を生み出しても、人間の内面に迫ったって、笑えなければ意味がないのがコメディだ。しかも100人中100人が面白いかと思うかというとそうでもない、誰が観ても面白いなんてものがないジャンルがコメディである。

 そう考えるとコメディはほかのジャンルに比べて圧倒的に不利である。アカデミー賞は笑えたから賞をあげるという事は非常に少なかったし、観る側もわかりやすい感動は心に残りやすいが、笑いは「はぁ~、笑った」で終わってしまう。

 そこがいいんじゃない!という事ももちろんわかるが、ただあまりにもコメディが撮れるが過小評価されてしまうご時世。

 コメディ監督こそ、素晴らしいのだと伝えるためにも今回はコメディの天才アダム・マッケイを取り上げて、『俺たち~』シリーズの監督であるという事すら、忘れられ始めた彼の原点を紐解き、彼のスタイル、そして彼の笑いのメカニズムに迫る。

 

〇アダム・マッケイができるまで

 1968年4月17日、ペンシルベニア州フィラデルフィアで生まれた彼は、12歳の頃に観た『フライング・ハイ!』の影響を受けてコメディの世界に入り込む。

テンプル大学在学中に、スタンダップ・コメディアンとしてキャリアをスタートした。

 そんな時、彼が出会ったのはシカゴのインプロ(即興コメディ)であった。

インプロにはスタンダップ・コメディにはない自由さや演じる事の楽しさがあり、すっかり魅了されてしまう。

 彼は大学を退学しインプロの本場シカゴへ移り住むことを決意するが、医者である父親からは反対される。

 「もし大学に残れば車も買ってやるし、ロースクールの学費も出してやる」

 そう言われてもアダムの決意は固く、家にあるレアなアイアンマンやキャプテンアメリカのコミックスを売りはらい上京資金にしてシカゴへ向かう。

 アダムは、ダン・エイクロイドマイク・マイヤーズ、ジョン・ファブローといったコメディアンや俳優たちのインプロの師匠である、デル・クローズに師事し、インプロを学んでいった。

 彼の指導の下、頭角を現してきたアダムは、「アダム・マッケイ23歳。自殺します。ウソじゃありません」というポスターをいたるところに張り付け、インプロショーで自殺を試みるという前代未聞のパフォーマンスを行った。

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※劇場の屋根からアダムの格好の人形を投げ捨て、その後死神の格好をした仲間と共にステージに現れ死後の世界のコントをやるという内容

 過激な内容やリベラルな内容のコントをやるのがこの頃から好きだったマッケイは他にも哲学者のノーム・チョムスキーが幼稚園生にネイティブアメリカンの虐殺の歴史を教えるというコントをやったが、左翼的すぎると酷評を受けた。

 その後、彼は、マット・ベッサー、イアン・ロバーツら共に即興コメディ劇団『アップライト・シチズンズ・ブリゲイド』を結成。

後にエイミー・ポーラー(パークス・アンド・レクリエーション)、マット・ウォルシュ(Veep)などが加入する。1995年からは老舗のコメディ番組サタデー・ナイト・ライブのライターに。当初はキャストのオーディションに出たのだが、オーディションに落ち、代わりにライターとして採用された。

 

〇反逆の『サタデー・ナイト・ライブ』時代

 マッケイは『サタデー・ナイト・ライブ』で運命的な出会いをはたす。

「職場でこっそり猫になるのが趣味の男」というキャラクターを演じ、同じ頃に番組のメンバーに選ばれたコメディアン、ウィル・フェレル

マッケイはウィル・フェレルとコンビで沢山のコントを作り出すことになる。

「ストリーテラー」というミュージシャンが演奏する曲のバックグラウンドを語りながら、演奏する番組のパロディで、「もしニール・ダイアモンドの曲の誕生秘話がどれも狂った内容だったら」というコントや「ロボットに襲われた時に便利な保険」のCMなど狂ったなコントを書くことが多かったため、お蔵入りになる事も多かった。

 抜群のセンスで一躍人気者になったフェレルに引っ張られるように、

マッケイもコントの取捨選択などを任される番組のライターのトップ、ヘッド・ライターに選ばれた。

 


Old Glory Insurance - SNL

 

 マッケイは、とある事件を起こす。

サタデー・ナイト・ライブを放送している、NBCの親会社ゼネラル・エレクトリックなどの大企業をイジったコントをロバート・スミゲルと共に製作。

 内容は大企業がメディアを買収する事によって大企業にとって都合の悪い事をメディアで報じないように封じ込める事ができるというのを教育アニメの「スクールハウスロック」風に歌にしてイジった。

 


its a mediaopoly

 そこでは、1989年のユナイテッド航空232便不時着事故の原因がゼネラル・エレクトリックに報じなかった事やロビー活動をして規制緩和をしてもらっている事を歌った。

 もちろん、その内容にゼネラル・エレクトリックは大激怒してしまう。

その後2003年にマッケイは番組を卒業、ヘッド・ライターの座をティナ・フェイに譲った。

 

〇俺たちコンビ映画界へ

SNL時代にも映画にはちょくちょく出演していたフェレルには仕事があったが、マッケイはというとそうではなかった。SNL時代に撮った、奇妙な短編ぐらいしか映像作品の実績がなかったマッケイは映画界からは相手にされなかった。

 


Stavenhagen's Food Pawn Shop with Steve Buscemi and Will Ferrell

アダム・マッケイの初監督作品。

主演はスティーヴ・ブシェミと豪華。

 

しかし、そんなある時、ウィル・フェレルの主演映画を作りたがっていた、同じく当時キャリア的に不調だったジャド・アパトーが2人に目を付ける。

 マッケイとフェレルは、70年代に女性差別があったTV業界の女性ニュースキャスターの本に目を付け、この話をベースに差別する側のひどい男たちを主人公にしたストーリーを作り出す。そう、俺たちニュースキャスター(04)の誕生である。

本作は大ヒットとはいたらなかったが、カルト的な支持を受け、ウィル・フェレルの代表作となった。

 その後も、ジャド・アパトー製作、アダム・マッケイ監督、ウィル・フェレル主演という体制でNASCARの世界を舞台にした『タラデガ・ナイト オーバルの狼』(06)をファレルと共に製作。『タラデガ・ナイト』でも共演した、ジョン・C・ライリーと共に、40歳で親と同居するニートの男2人が両親の再婚を機に義理の兄弟となってしまう『俺たちステップブラザーズ~義兄弟~』(08)を製作。

 この3作品には2の共通点がある。まずは、

王道なプロット。『俺たちニュースキャスター』『タラデガ・ナイト』は傲慢な主人公がライバルの出現によりおちぶれて、改心してもう一度キャリアに返り咲くというストーリー。『俺たちステップブラザーズ』は憎みあっていた者同士がお互いを認め合い、協力しより大きな問題へ立ち向かうというストーリー。

 いかにもアメリカ映画の王道というストーリーは、マッケイ作品にはあくまで容器のようなもの。その決まった形にいかにキテレツなキャラクターやギャグ、社会風刺を入れ込めるかが彼の作品の本質である。奇想天外な展開やストーリーそのものが笑えるというコメディではない。

 


Talladega Nights (3/8) Movie CLIP - Knife in the Leg (2006) HD

『タラデガ・ナイト オーバルの狼』より

半身不随になってしまったと勘違いしたリッキー・ボビーが自分の辛さを証明するために脚にナイフを刺すシーン。

 

 そしてもう一つが、ファレルが演じる主人公がバカで保守的で差別的なアメリカ人であるという事。

ここが特にマッケイ作品と他のアメリカンコメディ作品と違う点である。

 アメリカンコメディ、例えば70年代、80年代のコメディといえば、主人公はどちらかと言えば反抗的、カウンター・カルチャー的なキャラクターで、ビル・マーレイエディ・マーフィーなど権力に盾突くスマートなキャラクターがコメディには多かった。

 たとえ、とことんバカなキャラクターであっても『天国から落ちた男』や『Mr.ダマー』のようにピュアで根本的には善人である事が多い。

 しかし、マッケイ作品のキャラクターは違う。マッケイが作るキャラクターは、非常に有害なバカである。

 最もわかりやすい例で言えば『俺たちニュースキャスター』のデヴィッド・ケックナー演じる、スポーツキャスターのチャンプ

 彼は女性差別、同性愛嫌悪、アメリカ男性主義の権化である一方で、自分がゲイである事を自覚していないほどバカというキャラクターである。

マッケイのコメディのスタイルは、反知性主義で保守的なバカを笑うコメディになっている。だが、もちろんそれだけではない。

 ちゃんとそのキャラクターは良き人間になろうと挫折を繰り返しながら努力し最後は再び栄光を取り戻す。ファレルが演じるキャラクターはまるで人種差別や戦争さまざまな問題を抱え壁にぶち当たりながらも理想へ向かおうとするアメリカ自身を象徴しているようだ。問題や矛盾を大いに抱えているが、でも観ている人が嫌いになれないという感じがまさにそうである。

 この点こそ、マッケイの作品がブッシュ世代のコメディ言われる所以である。ブッシュ大統領が無知で保守的な人間と言われ、保守的なアメリカ人から支持されたように、そんなアメリカ人を笑いものにしたマッケイ作品はアメリカで多くの支持を得た。

 

〇作風の変容

トップクラスのコメディアンとコメディ監督になったマッケイとフェレルは、2007年に

コメディ動画をアップロードできる『funny or die』というサイトをスタート。当時は変態同士のコミュニケーションツールでしかなかったインターネット(※マッケイ談)でコントを投稿し新たなコメディの才能を発掘していった。

 もちろん、2人もここでコントをいくつか配信している。

 


The Landlord [UNCENSORED]

マッケイの娘とのコント。※現在この娘はミュージシャンとしての活動も始めた

 

マッケイとファレルのコンビ第4作目は、アパトーのプロデュースも外れ、

より政治的な内容へと変容していく。

『アザーガイズ~俺たち踊るハイパー刑事~』(10)は、ストーリーの大筋は王道なバディアクションではあるのだが、少しひねりが効いている。

 まず、マッケイ作品にいつも登場するような保守的で傲慢でバカなキャラクターの刑事は映画の序盤で死亡。ファレルが演じる主人公は、やや臆病ではあるが、真面目で賢い男でその相棒のマーク・ウォールバーグ演じる刑事は、正義感が強く良い警官ではあるが誤ってデレク・ジーターを撃ってしまったため、刑事としてバカにされている男。

 2人の敵は、麻薬王やテロリストではない。リーマンショックアメリカ経済を崩壊した金融業界である。今作は我々の身近にいる本当の敵は、金融崩壊をさせた奴らだ!と金融業界を断罪するのだが今作のテーマはこれだけではない。

 フェレル演じたキャラクターにはモデルがいる。それはハリー・マーコポロス

 彼は6兆円の被害額を出した金融詐欺事件の犯人、バーナード・マドフを暴いた人物だが、リーマンショックの影響でマドフが自ら詐欺を自供するまで彼を信じるものはいなかった。彼のように世の中からはオタクと言われていたり、カリスマ性が無くても真面目に働く、その他大勢の人物(アザーガイズ)の言う事を聞くべきだというメッセージをこの映画のファレルのキャラクターに込めた。ただじゃない方のキャラクターに焦点を当てた刑事コメディでは決してないのである。

『アザーガイズ』はアメリカで大ヒットしたが、今作のテーマやメッセージを理解しなかった観客も多かった。

 最後の祭りとばかりに弾けまくった俺たちニュースキャスター2史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』(13)では、全編完全なおふざけである一方で、今回の舞台でもある24時間のニュース専門チャンネルを通してアメリカのニュースの変容が描いている。

 重要なニュースの代わりにカーチェイスを放送したり、無駄に文字などのエフェクトを多用したり、画面に株式情報など色んな情報を詰め込んだりと視聴率を狙うためなら何でもするメディアへの風刺が至る所に入っている。

中でも印象的なのが、視聴率を得るために主人公のロン・バーガンディが言った台詞。

 

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ロン「なぜ聞くべき事を伝えなきゃならん?聞きたい事を伝えたい」

フレディ「視聴者が聞きたい事とは?」

ロン「この国が偉大だという事さ」

 

 

これは愛国的なニュースを放送し、政府と癒着し世論を誘導しようとした右翼メディアのFOXニュースをパロディにした台詞だ。

またマッケイがSNL時代、NBCの親会社ゼネラル・エレクトリックの不時着事件への関与を報じなかった事をコントで揶揄したように、『俺たちニュースキャスター2』でも、同じようにロンのいる会社GNNの親会社パンダ・エアラインが飛行機のエンジン落下事件を報じないように圧力をかけるというシーンが登場する。

映画の後半、そんな様々な制約や圧力、不正などでがんじがらめになったメディアに対して、そして視聴者に対してロン・バーガンディがメディアのありかたやニュースとは何かを問いかけてくる。

 

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ロン「本当のニュースとは権力が腐敗しないよう視聴者に知らせること。

   もし権力がニュースを握ったら?おやすみ、アメリカ。

   忘れないで。真実が大事です」

 

俺たちニュースキャスター2』は、前作よりもよりメッセージが明確に力強く発せられている。

 

〇マッケイ、怒る

 映画は必ずしも、そのテーマや主張を観る側が理解するわけではない。ましてやコメディになるとなおさらである。

事実、『タラデガ・ナイト オーバルの狼』は、映画内であんなにバカにしていたにも関わらず保守的なアメリカ白人から大きな支持を得ていた。

 マッケイのコメディ作よりも混沌とした世の中になってしまったアメリカの中でマッケイの作る作品は、より政治的でコメディ色を抑えた作品に変わっていく。

 

『マネー・ショート~華麗なる大逆転~』(15)では、リーマンショックの裏側を4人のキャラクターの視点で物語映画というよりも『オーソン・ウェルズのフェイク』のようなエッセイ映画のような撮り方を行った。

実際の写真や映像を細切れにインサートしたり、説明が退屈だからとバスタブにつかったマーゴット・ロビーサブプライム・モーゲッジの事を説明してもらいますといきなり映画の流れを無視して、マーゴット・ロビーが開設をはじめるなど、観ていてドキュメンタリーなのか劇映画わからなくなってくる構成になっている。

スタイリッシュでドライな演出の中でもリーマンショックに対する怒りは強く表れていた。スティーブ・カレル演じるマーク・バウムは、劇中、ほとんどキレている。実在の人物をモデルにはしているが、まるでアダム・マッケイの怒りを代弁しているようだった。彼の台詞には不正や不誠実な金融業界への怒りに満ちている。

 

 さらに続くバイス(18)では、『マネー・ショート』での演出法をそのままにブッシュ政権を裏で操っていたディック・チェイニー元副大統領の伝記映画を作ってみせた。

 映画の途中、チェイニーが犬のブリーダーになって幸せな余生を過ごしてめでたしめでたし・・・というテロップと共にエンドロールが始まったり、登場人物の会話をシェイクスピア調にしてみたり、カットされたシーンだが政界でのやり方をミュージカルで教えるなど、よりふざけたやり方でただの政治家の自伝映画ではないドラマであり、政治スリラーでもありコメディでもあるというジャンルを定義しがたい映画にマッケイは仕上げた。


Vice: Musical Deleted Scene

 

 アダム・マッケイの監督以外の部分では、ウィル・フェレルと共同で立ち上げた映画製作会社「ゲイリー・サンチェス」で、主にウィル・フェレル主演の映画のプロデュースをし、他にもメディア王、ルパード・マードックをモデルにしたHBOのドラマ『サクセッション(キング・オブ・メディア)』(18)、Amazonではグローバル経済をテーマにコメディアンのカル・ペンがお金の裏側をあぶりだす、コメディドキュメンタリージャイアント・ビースト』(19)なども製作している。

 さらに女性監督、女性製作者による映画を増やすための映画製作会社「グロリア・サンチェス」も設立し、『ブック・スマート』(19)やハスラーズ』(19)などのヒット作も生み出した。

 

 現在、設立したFunny or dieが、ロイヤル・ダッチ・シェルとパートナー関係を了解なしに結んだため、環境問題に取り組んでいるマッケイはそれに憤慨し、Funny or dieを抜けてしまう。

さらにウィル・フェレルとのコンビを解消し、ゲイリー・サンチェスを解体し、グロリア・サンチェスも受け渡して、新たに個人として「ハイパーオブジェクト・インダストリー」を設立。

最初の長編映画としては『Don’t Look UP』ジェニファー・ローレンス主演でNETFLIXでの配信が決定している。

 また、科学など非常に退屈と思われがちなものをテーマにしたポッドキャスト

Surprisingly Awesomeもスタート。

 放送時期は未定だが、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』の米国リメイクの製作もHBOで行うと発表された。

 また、マーベル作品のシルバー・サーファーの映画化も狙っているそうだ。

 

 マッケイは『俺たち~』のようなコメディはしばらく撮らないそうだ。

理由は、トランプ政権になり自分たちが撮っていたコメディよりもイカれた状況になったからだという。

 世界は、今もなお混沌に満ちている。

 マスコミは報じるべき問題をなかなか報じず、報じたら報じたで保守派はマスコミは反権力の情報操作をしていると怒り出す。

 コロナウイルスのせいで、余計に国や政府の足を引っ張るような報道をするなと声が保守派ではない一般人からも上がりだした。

 だが、こんな時こそ、ロン・バーガンディの言葉を思い出してほしい。

「本当のニュースとは権力が腐敗しないよう視聴者に知らせること」

 こういう混乱した時期を狙って裏で何かやましい事をしだす輩は多くなる。

我々はそれをキチンと監視するためにもメディアは無くてはならない。

たとえ、政権が変わったとしても同じこと。それがアメリカだろうが日本だろうが関係ないのである。

 

 アダム・マッケイはここまで深い部分まで掘り下げる事もできる作品を作れる映画監督だ。この視点を持って観てもらえれば、バカな映画の中にも新たな発見があるはずだ。

マッケイが再びウィル・フェレルとバカな映画を撮れる日が来るように祈る。

こんな時にこそ一番観たいのに観る事が出来ないドラマ 『パークス・アンド・レクリエーション』とは

 

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 NetflixAmazon prime、Huluなどの登場で、アメリカの人気ドラマの大概は観る事ができるようになった。

しかし、まだ観る事もできなければ一度も配信すらされていない人気ドラマがある。

それが『パークス・アンド・レクリエーション(Parks and Recreation)だ。

 アメリカのTVドラマのランキングには必ず上位にランクインされ、作品だけでなく

そのキャラクターたちも愛されている国民的人気ドラマだ。

 

〇最高の製作陣 

このドラマを作ったのは『ザ・シンプソンズ』の脚本やアメリカ版『The Office』を製作したグレッグ・ダニエルズと、同じく『The Office』や『ブルックリン・ナイン・ナイン』、『グッド・プレイス』を製作したマイケル・シュア

 『The Office』に続く新たな職場コメディを作るためマイケル・シュアは当時ハマっていた、ホワイトハウスを舞台にした政治ドラマザ・ホワイトハウスを参考により小規模にした地方自治体が舞台のコメディを考えた。

『パークス・アンド・レクリエーション』は、インディアナ州の架空の街、ポウニーの公園緑地管理課を舞台に曲者ばかりの職員とさらにクセの強い住民たちとの交流を描いた物語である。

 製作陣は、実際に公園緑地管理課で起きた問題や事件をリサーチし、脚本に取り込んだ。

 地方自治体の財政問題などリアルな題材から世界の終わりを信じる宗教団体に公園を貸し出してあげるというクレイジーなエピソードもあり、そのストーリーは多岐に渡る。

 

〇愛すべきキャラクターたち

 ポウニーを愛する公園緑地課の副課長で主人公のレズリー・ノープを演じるのは、

今作の製作も務めているコメディアンのエイミー・ポーラー

 彼女は同僚の誕生日を全員覚えているぐらい優しいが時に愛情が過剰すぎて鬱陶しく、真面目で頑張り屋である一方、インフルエンザに罹っても働こうとしたり、ポウニーを愛するがあまり、ライバルである隣町のイーグルトンに不法投棄しようとするなどたくさんの愛とたくさんの問題点を抱えた、愛すべきキャラクターである。

 


Best of Leslie Knope - Parks and Recreation

 そして、『パークス・アンド・レクリエーション』のもう一人の人気キャラクターは、ニック・オファーマンが演じるロン・スワンソン

レズリーの上司で、役所で働いているにもかかわらず、政府やシステムを一切信用しない。社会科見学に訪れた小学生の女の子に政府がどれだけ税金を搾取しているかを説いてみたり、個人情報を明かさないためにありとあらゆる自分の個人情報を消して回ったりする生粋のリバータリアン


Best of Ron Swanson - Parks and Recreation

 

 その他にもレズリーの親友でレズリーから異常な愛情に困る看護師のアン・パーキンスラシダ・ジョーンズが演じている。

 また、名声や女性には熱心だが、仕事はまったくいい加減なトム・ハバーフォードアジズ・アンサリが演じ、反抗的なインターンエイプリルオーブリー・プラザが演じ、アンの元カレでバカなバンドマン、アンディガーディアンズ・オブ・ギャラクシーで人気になる前のクリス・プラットが演じている。

 

〇苦戦したシーズン1とちょっとしたテコ入れ

 シーズン1の評価は微妙だった。レズリーがただ空回りするところを笑うような『The Office』のような冷めたトーンのコメディになっていて批評家からの評判も良くはなかった。

 シーズン2からはとても小さくでも大事なテコ入れをした。

レズリーのキャラクターを変えずに周りのレズリーに対するアクションを変えた。

 簡単に言えば、レズリーに対して他のキャラクターが尊敬と愛情を持たせるようになった。

そこを変えた途端、それがほかのキャラクター同士にも影響しあい、『パークス・アンド・レクリエーション』は、優しさと温かみを持ち合わせたドラマになっていった。

 さらにシーズン2からは、新たなキャストとして、ロブ・ロウ演じる狂気すら感じるほどのナイスガイのクリスアダム・スコット演じるレズリーの将来のパートナーにもなるオタクの優男、ベンの2人が追加されてストーリー面、キャスト面でも『パークス・アンド・レクリエーション』は完成する。

 

では、『パークス・アンド・レクリエーション』はどんなドラマなのか、ここからは、エピソードをいくつか紹介しよう。

 

〇シーズン3第2話 「フル・シーズン」

 レズリーがインフルエンザに罹ってしまう。

 職員たちは、レズリーに家に帰れと諭す、ポウニーの収穫祭を企画しているレズリーはただのアレルギーだと言い張り帰ろうとしない。事態はどんどん悪化していってき、レズリーは入院してしまう。

 しかし、収穫祭の公聴会があるレズリーは病院を抜け出し、公聴会に参加する。


Leslie Has The Flu - Parks and Recreation

 

〇シーズン3第3話 「タイムカプセル」

  ポウニーを象徴する思い出や記念品を詰めたタイムカプセルを埋める事を決めたレズリーのもとにトワイライトを持った中年の男(ウィル・フォーテ)が現れる。

 トワイライトをタイムカプセルにいれるようにレズリーにお願いするのだが、断られてしまう。すると男は手錠で自分を繋いでレズリーのオフィスに立てこもり抗議活動を開始する。男がオフィスに居座るうちにレズリーを含めた職員たちはトワイライトのファンになっていく。

 レズリーは男が別居した娘との思い出としてトワイライトをカプセルに入れたいのだと知り、住民の反対を受けながらもレズリーはカプセルにトワイライトを入れるために奮闘する。


Time-Capsule Nutjob Kelly Larson - Parks and Recreation

 

〇シーズン4第4話「ポウニー・レンジャーズ」

 ロンが毎年やっている、ポウニーのボーイスカウト“ポウニー・レンジャーズ”。

そのキャンプにレズリーも参加したいと申し出るがロンはそれを拒否する。

 怒ったレズリーはロンに対抗してガールスカウト“ポウニー・ゴッデス”を結成し、ロンがいるキャンプ場にやってくる。ロンの厳しい規律に耐えられなくなった男の子たちは、次々にレンジャーズを抜けて、気づけばロンは独りになってしまう。

 一方、ゴッデスの中でも問題が起き始める。


Pawnee Rangers and Pawnee Goddesses - Parks and Recreation

 

 『パークス・アンド・レクリエーション』はシーズン7まで続き全125話、2015年にシーズンフィナーレを無事迎えた。

 (最終話が面白くないという海外ドラマあるあるも無事回避した感動的なラストであった)

 

『パークス・アンド・レクリエーション』は、ただ笑わせてくれるだけでなく時に我々を感動させ大切なものを視聴者に残してくれた。

 

「人生で大事なのは、仲間とワッフルそれと仕事。

 もしくはワッフルと仲間それと仕事。

 どんな事があっても仕事は3番目」(レズリー・ノープの台詞)

 

 このドラマでは、常に誰かを気づかい優しくする事の大事さを教えてくれる。

さらに付け加えると、このドラマは、小さな地方自治の話というだけでなく政府・行政のありかた、どうあるべきなのかを我々に示してくれる。このドラマのレズリーのように常にこの街、この国が良くなることを常に考え、さまざまな人と手を取り合いながら進んでいくような人間がいてくれればどんなにいいだろうかと考えてしまう。ドナルド・トランプが大統領になり、さらに新型コロナウイルスアメリカだけなく世界で猛威を振るっている。

 そんな中、新型コロナウイルス対策基金の募金活動のため『パークス・アンド・レクリエーション』はおよそ5年ぶりに一夜限りの復活を果たす

 アメリカの未曽有の危機の時に戻ってきてくれるとは、本当にこのドラマらしいカンバックだ。我々をどう笑わせてどう励ましてくれるのだろうか。今から楽しみである。

 

『パークス・アンド・レクリエーション』は英語字幕ならば、DVDで観る事ができる。

 もし、この自粛中で暗い気持ちになったりするようであれば、この作品を観てみるのはいかがだろうか。

 

 

世界一考察から遠い映画『俺たちステップブラザーズ』の考察する

 

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 巷には、映画の考察があふれている。古くは『2001年宇宙の旅』、『ブレード・ランナー』最近では『ダークナイト』『パラサイト』『ジョーカー』・・・などさまざまなジャンルの映画の考察が行われているが、コメディ映画の考察はかなり少ない。古典の映画ならまだあるが、最近のコメディ映画の考察は無いに等しい。

当たり前である、コメディ映画に考察が必要なほど難しいようなら面白くない。

それは、わかるがそれらは本当に考察に値しないのだろうか。

『俺たちステップブラザーズ』というもっとも考察から遠い映画を考察しようと思う。

そこから、新たな発見や魅力がわかるはずだ。

 すでに観ていて大好きな人もまだ観たことない人にもこの作品をより楽しめるようになってもらえれば幸いである。

 

マッケイ流のストーリーテーリング

『俺たちステップブラザーズ』は、アダム・マッケイの3作品目の監督作品。

ストーリーは、39歳で母親と同居しているブレナン(ウィル・フェレル)と40歳で父親と同居しているデイル(ジョン・C・ライリー)が、親の再婚により義兄弟となってしまい、同居生活が始まる。最初は対立していた2人だが、やがて友情をはぐくみ本物の兄弟のようになっていくという物語。

いかにもオーソドックスなストーリーだが、それはアダム・マッケイのストーリーテーリングの特徴である。

 例えば同じ監督作の『俺たちニュースキャスター』、『タラデカ・ナイト オーバルの狼』は、典型的な伝記モノのストーリー。1幕目では主人公の栄光の日々が描かれと2幕目では主人公の挫折と失敗、そして3幕目で主人公が再び立ち上がり栄光を取り戻すという非常にオーソドックスなストーリーテーリングをしている。

観ている側の多くがすでに知っているオーソドックスなストーリーだから、ギャグが多くて注意散漫になってもストーリーを見失う事はない

もう一つマッケイがオーソドックスなストーリーを使う理由としては、既存の映画を徹底的にコケにするためである。

俺たちニュースキャスター』も『タラデカ・ナイト オーバルの狼』も伝記モノだが明らかにバカな人間しか出てこない。

 オーソドックスな伝記モノの展開するストーリーとその話と相反するキャラクター達のバカさのギャップがたまらなく可笑しい。

 『俺たちステップブラザーズ』のストーリーテーリングも非常にオーソドックスで、反目しあう者たちがやがて友情をはぐくみ、2人の間に出来た大きな障害を乗り越え、よりよい人間に成長するという構造だ。

『俺たちステップブラザーズ』では、この手の映画によくあるキャラクターの成長を描くベタなモンタージュが出てくる。

 家を追い出されたブレナンが独り暮らしを始め、トイレをしていると紙がなく、しかたなしにマットレスで尻を拭き、次のカットでスーパーからトイレットペーパーを買ってガッツポーズをしながら出てくるブレナンを壮大な音楽で盛り上げるという映画史上最もどうしようもない成長のモンタージュである。

 このように映画のベタを徹底的にコケにするマッケイの作品ではストーリーは重要ではないのである。

 

ウィル・フェレルの最強兵器「即興」の魅力

 では、『俺たちステップブラザーズ』はストーリーに気にしない行きあたりばったりなギャグだけで構成された雑な映画なのかと言われるとそうではない。

 ここからは、この映画の特に優れている点を挙げていきたいと思う。

まずはロジカルに作られた『即興』いわゆるアドリブ

 この作品に限らず、マッケイの作品はもちろん、コメディ映画ではアドリブが多い。

アドリブが作品を支えていると言っても過言ではない。

 ただ、一般的にアドリブはその場で思いついた台本にない面白い事を言って笑わせるのがアドリブだと思われがちだが、そうではない。

 アドリブは常にロジカルでなければいけない。

 このキャラクターだからこういう事を言うなどとその場面に則したアドリブだから自然に聞こえて笑える。逆にキャラクター、場面に則したアドリブでなければ、どんなに面白いモノを言えたとしてもそのシーンのその笑いは浮いてしまう。

アドリブのシーンがアドリブだとわかってしまうようでは意味がない。

さも脚本に書いてあったかのように、アドリブが言えるから、すごいのである。

これに関しては、主演のウィル・フェレル、アダム・マッケイが即興劇団に所属し学んだことから来ている。アドリブのシーンに関してはそこを一番大事にしている。

だから、コメディアンじゃない、義父役のリチャード・ジェンキンスや母親役のメアリー・スティーンバージェンにもアドリブをやらせるのは、俳優として彼らがそのキャラクターを理解しているからである。

即興というのはその場で思いついた言う事ではなくキャラクターの理解でもある。

また即興以外の部分でもキャラクターの理解は大事にしている。

この作品のキャラクターの主人公2人のルールは『外身は大人だが中身は子供である』という事。だから、2人の衣装は常に短パンにTシャツで、お酒を飲んでいるシーンはないし、大喧嘩して疲れて寝てしまうなど子供であるという演出は細部にわたってされている。

さらに見た目も状況もさして変わらない、ブレナンとデイルだが、意外と丁寧な演じ分けもされている。

ブレナンは非常に繊細で内向的でトラウマを抱えている。

デイルは粗野で虚栄を張った自信家。仕事が無くても上手くやっていると思っている。

 このように正反対な2人なのでセリフや行動にも差が出ている。

ブレナンはどんな人にも丁寧な接し方をするのに対してデイルは非常に高圧的である。

また小道具にも差が出ていて、2人が顔を合わせて初めての食事のシーンでは、

ブレナンはグラスでブルーのペプシを飲んでいるのに対しデイルは缶から直接飲んでいる。

 このように細かいルールも設けているのはキチンとキャラクターを理解して作られているからである。

 

 キャラクターの理解だけでなく即興の基本として『目の前にあるものを使う』という事。

どういう意味かと言いうと、脚本上のいままでの流れで出てきたもの要素をなるべく使うという事。これもコメディ映画ではよく忘れがちで、面白いという事だけで唐突に色々なギャグを出していくと非常に雑なものになってしまう。

 その点『俺たちステップブラザーズ』は、丁寧に前フリを入れていたり、前に使ったギャグや話、小道具などをキチンと使いながらギャグやストーリーが構成されている。

 わかりやすい例で言うと、デイルのドラムセット。

デイルが一番大事にしているものであり、誰にも触れさせないようにしている神聖なドラムセット。1幕目ではそれを勝手にブレナンが触り大喧嘩になる。

2幕目ではデイルがブレナンを殺害して生き埋めにする時に使われる。

3幕目では、ステージで勇気を振り絞りデイルとブレナンがパフォーマンスをするシーンで使われる。ストーリーの節目、節目にキチンとドラムセットが使われているのだ。

細かい部分で言えば、最初に登場した隣の獰猛な盲導犬が途中の大喧嘩シーンにも登場したり、ブレナンの弟、デレクが発表会で口パクで踊ったヴァニラアイスの曲『ICE ICE BABY』は、デレクが登場する要所要所で流れたり、デレクの不動産屋の看板には

「D-MAN(デレクのあだ名) MY HOUSE IS NICE NICE HOUSE」と歌詞をモジったセールス文言が書かれている。

 このように即興の基本に則してギャグやストーリーが構成されている。

 


Step Brothers - Funny Quotes

 

アダム・マッケイのシャープな演出

 『俺たちステップブラザーズ』は即興の要素だけがすごいのかというとそうではない。

 マッケイの演出が冴えている部分も多い。

中でも優れているのがキャラクターの紹介するシーン。

説明台詞などは極力使わずにビジュアルだけでキャラクターを紹介している。

オープニングシーンではブレナンとデイルがどういう生活をしていてどういう人間なのかカットバックで見せていく。

また2人の親が出会うシーンも非常にシンプルにテンポよく展開していく。

特筆すべきは、やはりデレクの家族の登場シーン。

家族が車に乗りながらアカペラでハモっているだけなのであるが、まるでロボットのような子供たち、妻の表情は死んでいていかにもこの夫婦の間に愛はないという事、弟はコントロールフリークで妻を抑えつけていて、競争主義的な人物である事がこの車のシーンだけで充分伝わってくるのである。

そのような事がわずか1分ほどのシーンですべて伝わってくるのがすごい。

 このシーンは、おそらくどの映画のキャラクター紹介シーンよりも優れた紹介シーンであろう。


Step brothers (Derek can sing high like this)

 

この映画最大の魅力、エモーショナルな3幕目

 『俺たちステップブラザーズ』がキチンと定石を踏み、ていねいに作られた映画だとはこれでわかったかと思われるが、同時にチャレンジングな試みもしている。

 それが、エモーショナルになる3幕目である。

 すっかりやり手ビジネスマンなったブレナンがヘリコプターのリースパーティー、カタリーナ・ワイン・ミキサーの担当になり、家族の仲をもう一度取り戻そうと、ケータリングの仕事をしているデイル、母親、義父を招待してパーティーを行うのだが、80年代のビリー・ジョエルのコピーしかやらないバンドが出て行ってしまい、盛り上がりをみせていたパーティーは一気にシラケてしまう。上司のデレクのクビを宣告されるブレナン。

 義父のロバートは誰もいないステージを指さし、2人にステージに立つようにたきつける。

しかし、2人がそれを拒むとロバートは、自分が17歳の頃に恐竜になりたかったが、父親の反対を受けてその夢をあきらめてしまった話をする。

 「己の恐竜を失うな」とロバートは2人に言う。

『俺たちステップブラザーズ』は2人のマンチャイルドが、成長する話でもあるが、同時に、2人を嫌っていたロバートが自分のトラウマを通して息子たちを信じてあげる話にもなっている。

だから、このシーンはバカバカしくもウルッとされるのである。

勇気を振り絞ったデイルはステージに立ち果敢にドラムを叩き続ける。

「ボートと女」「ボートと女」…。デイルの歌声とビートが会場にむなしく響き渡る。

その姿を見たデレクは、かつてブレナンのトラウマを作るきっかけになった罵声

モッコリなし!(Dale has a mangaina!)」コールを始める。

かつて自分を苦しめた「モッコリなし!」コールを浴びるデイルを見てブレナンは、

ステージに立ち、彼の持つ天使のような歌声を披露する。

歌はアンドレア・ボッチェリの『君と旅立とう』。これをブレナンがイタリア語で真面目にしかも上手に歌うというバカバカしい笑いと同時に歌の持つダイナミックさに底知れぬ感動を覚えるという2つの相容れぬ感覚がぶつかりあいエモーショナルなエンディングを迎える

ブレナンがトラウマと向き合い、立ち上がる。映画の3幕目にぴったりの要素である。

 

アメリカンコメディの多くはストーリーを完結するに向けて3幕目はしっとりと感動的に終わらせようとしがちある。その分、笑いの勢いは、スローダウンしていく。

しかし、『俺たちステップブラザーズ』は、その法則を逆手に取るようにストーリーが感動的なベクトルに向かっていくのと同時にバカバカしさにもベクトルが向かっていくという離れ業をこのブレナンが『君と旅立とう』を歌うシーンで成し遂げた。

他のコメディ映画でもこのような事が出来た作品はまだない。


Step Brothers Singing Scene HD

 

このように『俺たちステップブラザーズ』は考察の甲斐がある映画である。

映画に隠された背景や謎を紐解くだけが考察ではないと思う。

※ちなみに『俺たちステップブラザーズ』の背景がないのではない。この作品の背景にあるのは、ブッシュ時代のアメリカ。アダム・マッケイの『俺たちニューキャスター』、『タラデガナイト』、『俺たちステップブラザーズ』のトリロジーはブッシュ時代のアメリカの傲慢さや幼児性、競争主義、男性優位主義をコケにするように作られていいて、アメリカがNo.1だと思っている、バカなアメリカ人を主人公にした一種の風刺映画でもある。

 コメディにおける演出や技術も十分考察の対象にはならないのだろうか。

 コメディ映画は技術的な部分の多くが見過ごされがちである。

このようにコメディの技術的な部分にフォーカスした考察もたまにはいいのではないだろうか。