I LOVE LAMP ~コメディのあれこれ~

海外コメディの事を書きます。日本では紹介の少ないものを中心に。主にジャド・アパトー

フリークス学園 ~入学編~

~はじめに~

この度、アメリカで『フリークス学園』のブルーレイボックスが発売された。

ボックスにはアメリカで放送されていた、4:3の画面サイズのヴァージョンと

4kスキャンをした16:9の画面サイズに合わせたヴァージョンの2種のディスクが、収録され、放送当時のものとリマスターされたものが楽しめるというお得なのか、そうでもないのかまったくわからない仕様になっている。

さらに、日本でもNetflixでフリークス学園が配信!

Netflixオリジナル作品『LOVE』の効果で、評価が日本でもジワジワ高まっているジャド・アパトーと、新『ゴースト・バスターズ』の監督としてなにかと話題(になっていればいいのだが….)のポール・フェイグの共作である『フリークス学園』が今あらためて注目すべき作品であるはずなので、せっかくジャド・アパトーの事もあんなに書いたんだから、ジャド・アパトーの最高傑作ともいうべきこの作品についてもまたダラダラと書かせていただきます。

これを機に、是非一度、ドラマも見て頂けたら幸いでございます。

今回は、第1話のストーリーとドラマの製作が始まるまでを書いた

フリークス学園~入学編~として掲載します。

ドラマの各エピソードの解説と製作から打ち切り前までの過程を書く~授業編~

打ち切りからその後の話までを書く~卒業編~と3つに分けていこうと思います。

何の宣言かはわかりませんが、これが配信やソフト化、未公開の『トレインレック』の

公開の後押しになればと思います。

 

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~フリークス学園とは~

1999年、アメリカのNBCで「Freaks&Geeks」(フリークス学園)というタイトルの学園ドラマが放送された。
いつもの学園ドラマでは、描かれる事のない、フリークス(落ちこぼれ)とギークス(オタク)の学園生活を描いたドラマであった。

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フリークス(落ちこぼれ)

※上から時計回りに、ニック(ジェイソン・シーゲル)、ケン(セス・ローゲン)、

 リンジー(リンダ・カルデリーニ)、キミー(ビジー・フィリップス)、ダニエル(ジェームズ・フランコ

 

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ギークス(オタク)

※左から、ニール(サム・レヴィーン)、サム(ジョン・フランシス・デイリー)、ビル(マーティン・スター)

 

 パイロット版の第1話「PILOT」の始まりはこうだ。
グラウンドのスタンド席でアメフト部の男とチアリーディング部の女がイチャついている。いかにもなアメリカ学園ドラマの始まりだ。
カメラはどんどん彼らに近づいていくが、カメラは2人を逸れて、スタンド席の下へ。
そこでは、フリークスのダニエルたちがヘヴィメタバンドのTシャツを着ていて教会を追い出されたという話をしている。
 そして、カメラは再び動き出し、今度は、ビル・マーレイのモノマネをやり合う、3人のギークスのサム、ニール、ビルの方へ。
すると、そこにいじめっ子のアランたちがやってきて、サムたちにつっかかる。
幸か不幸か、サムの姉、リンジーがそこに通りかかる。
どうやら彼女はサムたちの同級生たちからは、何をしでかすかわからないサイコ野郎と思われているようで、恐れをなしたいじめっ子たちはその場から逃げ出す。
姉に助けられたサム。だが、サムは礼を言うどころか、放っておいてくれと冷たくあしらう。やりきれないリンジー。「学校なんかサイテー」と愚痴る。
そして流れるのはこのドラマのオープニングの曲、女性パンクグループ、ランナウェイズの元メンバー、ジョーン・ジェットが歌う、「バッド・レピュテーション(悪い評判)」。

I don't give a damn 'bout my reputation
評判なんて気にしないわ
You're living in the past, it's a new generation
時代遅れね 時代は変わったの
A girl can do what she wants to do and that's what I'm gonna do
もう女の子は好きな事できるの だから私もしたい事をする
An' I don't give a damn 'bout my bad reputation
悪い評判なんて気にしない
Oh no, not me
気にしないわ

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まるで、今のリンジーの気持ちを歌うような曲だ。
このようにこのドラマは、流れる曲とドラマの内容がリンクするような作りになっている。
リンジーは、それまで優等生の女の子だったが、祖母の死をきっかけに、すべてに嫌気がさしたのか、父親のアーミージャケットを羽織り、今まで付き合う事のなかった学校のフリークスのグループの面々、ダニエル、ニック、ケン、キミーとつるみ始める。

なんとか馴染もうとするリンジーだが、ついこないだまでは、優等生グループだったリンジーが簡単に馴染める訳もなく、優等生グループ時代の友人、ミリーがしつこく数学選手権大会のエントリーに誘ってくるは、フリークスグループのキミーからは嫌われているはと彼女の新たなフリークスへの道は前途多難であった。

さらには、同級生にからかわれていた障害を持った生徒、イーライを助けダンスパーティの相手に誘う。しかし、その後また同級生たちから、からかわれているところを助けると、些細な行き違いでイーライを逆上させてしまい、彼はスタンド席で転んで、骨折してしまう。そして、同級生たちからは偽善者呼ばわりされる始末。
さらに追い打ちをかけるように、フリークスグループのニックと授業をサボっているところを進路指導の先生に見つかり、数学選手権大会に出るか、ダンスパーティの手伝いをするかの選択を選ばされる。まさにドン底のリンジー。
一方、サムたちは、いじめっ子のアランが自分たちをいじめないようどうすればいいか、対策を練っていた。そして、彼らはギークの上級生ハリスの元を訪れる。
彼は、ギークのカリスマのような立ち位置にいるのだが、どうもパッとしない佇まいで、その感じは、後の「スーパーバッド〜童貞ウォーズ〜」のマクラヴィンや「ナポレオン・ダイナマイト」の主人公を彷彿とさせるようなキャラクターだ。

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3人のギークたちに輪をかけてダメそうな男がハリス。ギークたちのマスターヨーダ


その後のエピソードでも彼は登場し、サムたちにためになるような、ならないようなアドバイスを与え続ける。
ハリスのアドバイスもあり、もう戦うしかないと決心したサムたちは、いじめっ子のアランが帰り道で1人でいるところを狙って3人でボコボコにしようという作戦を考える。卑怯極まりないのだが、3対1でもやられるんじゃないかと不安で仕方ないという情けない3人。
そして、放課後。戦いの場へ向かうビルとニール、そして野次馬としてやってきたクラスメイト。
1人、また1人と仲間が増えていくその場面は、まるで『ワイルドバンチ』を彷彿とさせるシーンだが、状況が状況だけになんとも情けない。仲間は一通り揃ったが、肝心のサムがいつまで経っても来ない。
教室を飛び出し急いで、集合場所へ向かうサム。だが、意中の女子、チアリーディング部のシンディに声をかけられる。舞い上がるサム。だが、時間は刻々と迫っていた。
サムは意を決して、彼女をダンスパーティに誘う。
すでに誘われているからと断られるも、会ったら踊ってあげると約束してくれた。
天にも昇る心地のサム。
 一方のニールたちは、1人自転車で帰宅途中のアランを発見。
急に弱腰になるもビルが意を決して、立ち向かい、3対1の大乱闘ならぬ小乱闘へ。
 史上もっともユルい乱闘シーンが始まる。
アランのセーターを破き、なんとか勝利した彼ら。
その帰り道、彼らは束の間の勝者の気分を味わうのであった。
そしてダンスパーティ当日。
退屈そうにミリーとパーティの手伝いをしに来ているリンジー。
そこに晴れ姿のサムが。サムは、ドキドキしながら、シンディに近づき、ダンスに誘う。
シンディの手を取りダンスフロアへ行くと、体育館で流れていたStyxの曲、「カム・セイル・アウェイ」と場面がリンクする。

We lived happily forever,
ずっと幸せに過ごしていく
so the story goes,
物語は続く
But somehow we missed out
on the pot of gold
だけど、どういうわけか見果てぬ夢を見失ってしまった
But we'll try
best that we can to carry on
でも、僕らは頑張り続けるんだ

そして曲がアップテンポに変わりさっきまでぎこちなかったサムが吹っ切れたように踊り出す。

A gathering of angels
appeared above my head,
天使が僕の周りに集まってきて
They sang to me this song of hope
and this is what they said,
僕に希望の歌を歌うんだ。
天使は歌う
They said
come sail away, come sail away,
come sail away with me lads,
共に船出だ、少年よ
come sail away, come sail away,
come sail away with me
共に旅立とう

それを見ていたリンジーも笑顔に。
彼女は会場で一人寂しそうにする、イーライの姿を見つけ、彼の手を取り、2人もダンスフロアへ。
シーズンの幕開けに相応しい終わりであった。
こうしてこの歌詞のようにドラマも進んでいくはずだった。

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第1話【PILOT】のラストシーン


~スタッフ&キャスト~

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このドラマの仕掛け人は、ジャド・アパトー(『40歳の童貞男』)とポール・フェイグ(『ブライズメイズ』)。
2人の出会いは、1980年代の終わり、若手コメディとして出会った2人は出番を終えたコメディクラブ。彼らはそこに残ってコーヒー片手に朝までポーカーする仲であった。
その後、仕事をするのはベン・スティラー出演、ジャド脚本の『ヘビーウェイト/サマー・キャンプ奪還作戦』にポールが出演した程度で、主だった共演共作はなかった。

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『ヘビーウェイト/サマー・キャンプ奪還作戦』のベン・スティラーの面白場面だけを集めた動画。『ドッジ・ボール』の元ネタだろうか・・・。1:03~あたりでポール・フェイグの姿も

 

ジャドは、コメディアンの道を諦め、脚本家になり、数多くのTV番組や映画の脚本のリライト(多くの作品はクレジットされる事はなかった。詳しくはジャド・アパトーの項で)をしていた。一方のポールは、キャリアが行き詰まっていた。映画やドラマの出演はあったもののメインのキャストではなく、また『サブリナ』のレギュラー出演も終わり、ポールは俳優の道を諦め、ジャドと同じく脚本家になる事を考えていた。
そんな折にジャドからドラマのアイデアがあればいつでも聞くよと言われたポールは、前々から考えていた学園ドラマのアイデアを脚本に落とし込む。
ポールは常々、学園ドラマではドロップアウト寸前の落ちこぼれたちや自分たちのようなオタクたちが、いないものとされているような描き方に不満を感じていた。
彼らを主人公にしたドラマを描いたら。そう思ったポールは、タイトルを『Freaks and Geeks』とし、パイロット版の脚本を書き上げ、ジャドに渡した。
ジャドは、軽い気持ちで頼んだ脚本が、まさか自分のキャリアで最も素晴らしい作品となるとは、思ってもみなかったと振り返る。
この脚本を気に入ったジャドは、すぐさまドリームワークスに持ち込み、FOX、ABCなどのテレビ局を経て、NBCの手に渡った。ジャドとポールは、局が脚本の内容に関して手を出さない事を条件に製作へGOを出した。さらにNBCにキャストを子役ではなく本物の子供たちをキャスティングするよう提案した。NBC側もその提案を快くのんだ。
こうして『Freaks and Geeks』の製作が始まった。
製作準備段階の初日、いきなりジャドは、脚本を変えようかとポールに言う。
ポールとしては、寝耳に水だったが、ジャドはより良いものに出来るならそうすべきだと言い、ポールもそれに納得した。
ポールは、今までコントロールフリークだったが、それ以来考えが変わったという。
ジャドは、ポールの脚本は、ギークたちの描写は完璧であったが、フリークたち描写はイマイチであると思い、新たに彼らの個性をユニークなものに書き直したものを共に作った。
一方、パイロット版の監督は、弱冠24歳の新人監督ジェイク・カスダン(『バッド・ティーチャー』)に選ばれた。
エージェントがジャドと同じで、彼の手腕は耳にしていたというが、初めての監督作品『ゼロ・エフェクト』もまだラッシュしか出来てない状況で、エージェントの話以外何も根拠も無く、彼を雇わなくてはならなかった。しかし、エージェントの話は間違いではなかった。
脚本、監督は揃った。今度はキャスティングのオーディションが始まった。
主人公のリンジー役のリンダ・カルデリーニが現れた時、ポールは彼女こそ、リンジーだと思ったそうだ。
リンジーの弟のサム役のジョン・フランシス・デイリーは、オーディション中ずっと体調が悪く、ただ吐かない事だけに集中したという。
そして、ダニエル役のジェームズ・フランコには、オーディションの時にもう既に映画スターの素質があったと監督のジェイク・カスダンは振り返る。
が、一方のジャドとポールはフランコの事を特にハンサムとは思っておらず、ジャドの事務所の女性たちがキャーキャー言っているのが、おかしくてしょうがなかったという。
ニック役のジェイソン・シーゲルは、オーディションに来るや否や、「この役がやりたいです」と言い、彼が出す陽気な雰囲気をジャドは、いたく気に入り、まるで高校の頃の自分を見ているようだと深い繋がりを感じたという。
ケン役のセス・ローゲンは、オーディションの時に舞い上がっていた。
なぜならそこに、『スキー・パトロール』に出演していたポールがいたからだ。
ポールがいることに気を取られ、ジャドの事など眼に入らなかったという。
ケリー役のビジー・フィリップスは、すでに役に入り込んでいたため、セスをたいそう怖がらせたという。
ビル役のマーティン・スターは、脚本や演出では出せないナチュラルな演技が評価され選ばれた。具体的には、ボッーとして口を開けて、何もしないでも人を笑わせられる技術である。
ニール役のサム・レヴィーンは、オーディションでウィリアム・シャトナーのモノマネをした。それは酷いものだったようで、本人は大変後悔したが、ジャドとポールは「これこそ、僕らが学校で、笑いを取ろうとみんなの前でやったバカだ」と気に入り彼を選んだ。
そして、彼らの満足のいく夢のようなキャストも出揃った。
しかし、ポールは心配であった。
もし、これでよくあるハリウッドの子役スターように、この子たちの人生を台無しにしたらどうしようと心配になった。
それを受けてジャドは、キャストミーティングの際に、キャストたちに言った。
「君たちには、俳優としてのチャンスだ。だから、ハリウッド流に流されず、番組に集中してくれ。ドラッグには手を出すな。番組はあるし、君たちを“E!ハリウッドトゥルーストーリー(ハリウッドスターのスキャンダルを中心にスターたちの経歴を振り返る番組)”で観たくないんだ」
まるで家族のようなスタッフとキャストによって第1話は作られていった。

(続く....)

 

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第1話の監督をした、ジェイク・カスダンの日本未DVD化作品『ゼロ・エフェクト』

観たいぞ!

 

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ポール・フェイグが出演した『スキー・パトロール』(1:30~あたりに出ているのがポール・フェイグ)

そうでもないぞ!